「命を賭けてまで「抵抗する」ことの意義とは何であるか」HUNGER ハンガー(2008) シローキイさんの映画レビュー(感想・評価)
命を賭けてまで「抵抗する」ことの意義とは何であるか
戦後のイギリスの黒歴史とも言えるアイルランド紛争。細かいところは割愛するが、この一連の紛争を理解するには歴史における両者の関係を知らなければならない。イングランド政府とアイルランドの関係は歴史的に征服者と被征服者の関係であった。イングランド政府はカトリック教徒であり征服したアイルランドの人々を差別的に扱ってきた。しかし、19世紀にセンセーションを巻き起こしたナショナリズムはアイルランドまで到達し、1919年のアイルランド独立宣言を皮切りにアイルランド人の闘争は武力衝突へと発展した。映画で問題となっている北アイルランドでは反カトリックの団体によるポグロムが起きた。ここは現在でもイギリスの一部であるが、このような宗教紛争と帰属意識が北アイルランド紛争へと繋がっている。
本作の主役である囚人は反英闘争をテロ闘争をもって展開したアイルランド共和国軍(以下IRA (Irish Republican Army))に加担したとして捕まった。IRAは民族主義を掲げる民兵集団であり、北アイルランドのアイルランド共和国への編入を求めていた。穏健派と急進派がいたものの、プロテスタント系住民とイギリス市民にとっては恐怖の対象であった。
政治的な意図を持って活動していた為、政治犯として収容されることを望んでいたが、語弊があるもののイギリス政府から見ればISISのようなイスラム過激派テロ組織を政治犯として扱うと同義であった故に強い抵抗感があったのだろう。保守派のサッチャー政権はこのハンガー・ストライキに強硬な姿勢で対応し、数年後の1984年の保守党の例年会議で爆破テロに遭遇している。
では、テロよる過激な主張とハンガー・ストライキという手段は行き過ぎな行為であったのだろうか。それが善悪どちらかであったのかは「立場の違い」によって異なる。しかし、彼らにとっての意義は反カトリックとイギリス政府からの解放へと進む確信があったと思える。少なくとも狂信的であるが純粋であった。看守の暴力は暴力性という特性が看守から見た囚人にはある為、「眼には目を」の暴力の応酬となってしまったのだろうか。暴力は関係を断絶させるので望ましくないが、それ以外をIRAやイギリス政府が選択できたのかと考えると、所詮自分の見方は「理想の倫理観」に過ぎないとげんなりする。
今までIRAは過激なテロリストという立場で描いた映画しか見たことがなかったので、今回の映画は新鮮なものだった。