「歴史が残した姿」バンクーバーの朝日 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
歴史が残した姿
戦前カナダに実在した日系人野球チーム“バンクーバー朝日”の奇跡の実話。
石井裕也監督が正攻法の演出で良作に仕上げた。
結構鈍い声が多いようだが、まあ分からなくもない。
展開は淡々とし、メリハリや盛り上がりに欠ける。
メインキャスト以外にも豪華な面々が揃ったものの、ほとんどが顔見せ程度。おざなりになってしまったエピソードも多い。
体力で勝る白人相手にバントや盗塁などの小戦法で勝利を重ねていくが、相手も人間、ずっとそれが通用するとは思えない。
が、本作は良し悪し…試合で例えるなら勝ち負けの判定じゃない。中身…プレーで見る。
過酷な労働、貧しい生活の中で、彼らの唯一の楽しみは野球。
何か一つ、好きな事に熱中する。
自分も仕事の合間合間に映画を見るのが一番の喜びなので、彼らの気持ちはよく分かる。
チームは毎年最下位。
そこから弱小チームが這い上がっていく。
だからこそ、今年のDeNAの(交流戦までの)快進撃は痛快だった。よって、巨人は嫌いだ。
彼ら日系人への風当たりは厳しい。
言われのない差別、偏見、不当な解雇…。
不平・不満はあっても決してやり返さない。
試合も打倒白人じゃない。
乱闘する事あってもちゃんと謝罪する。
相手への敬意、純粋でフェアな姿は必ず周囲の心を動かす。
野球映画の好編「42 世界を変えた男」と通じるものがあった。
全てが一気に変わったりはしない。
しがらみはまだまだ根強い。
が、分かり合う事が出来れば、通じ合えるものが出来れば…。
妻夫木聡、勝地涼、池松壮亮、野球経験のある亀梨和也や上地雄輔らが好演。
日本とカナダの架け橋的存在のヒロイン・高畑充希が印象的。
映画はこのまま甘い展開に…にはならなかった。
太平洋戦争突入。
歴史は時に苦い。
しかし、時が経って残るものこそ本物だ。
彼らの功績、フェアな姿が。