「全てを受け止めて少年少女たちは前に進む」ソロモンの偽証 後篇・裁判 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
全てを受け止めて少年少女たちは前に進む
宮部みゆきの大長編小説を2部作で映画化した大作ミステリーの後編。
いよいよ始まる学校裁判。
検事・涼子と弁護士・神原がそれぞれ主張する中、驚愕の真相、秘められた真実が明かされる…!
他の方のレビューを見ると、前編の方が面白かったという声がちらほら目立つが、何の何の!
裁判シーンも少年少女たちの演技も迫真。
前編には無かった感動要素も。
元々裁判モノが好きな事もあり、終始引き込まれ、前編に劣らぬ見応え!
学校裁判が開廷するのは始まって約1時間後。
裁判へ挑む当事者たちの内面が今一度じっくり描かれる。
裁判に反対する保護者側。
証人として出席を決意する樹理と大出。
決意を固める涼子。
神原は涼子とある約束をする…。
子供たちが学校で開く裁判。
茶番、裁判ごっこと見なし、面白可笑しく冷やかし、野次を飛ばす生徒や保護者たちには腹が立った。
こういう輩が、柏木が言う所の見て見ぬ振りをする悪質な偽善者。
どうでもいい、自分たちには関係ない…そんな生半可な気持ちは裁判が始まって吹っ飛んだ。
この学校裁判は、真実を究明するのが目的であって、誰かの罪を裁く場ではない。
結果的に生徒の犠牲者を出す事になったが、生徒たちを守ろうとした元校長への謝意。
死んだ柏木への本心を打ち明ける担任の謝罪。
これまで明かす事が出来なかった当事者たちの誠心誠意の意思表明。
目を背けようとしていた大人たちも苦しんでいた。
証人として出席した樹理と大出。
死人に口無し…とばかりに嘘か真か曖昧な証言をする樹理。
自分の弁護士である神原から過去の行いについて厳しく追及される大出。
二人には厳しい声がかけられる。
いじめに苦しんだ樹理。悲痛な訴え。しかし、そうする事しか出来なかったのか。
大出も父の暴力に苦しみ、母の身を案じる一面を持っているものの、だからと言ってこれまでして来た事は許されるものではない。
大出に苦しめられてきた者たちに変わって神原が投げ掛ける訴えには胸を打たれた。
裁判が進むにつれ、少しずつ明らかになる真相。
最終日に急展開。新証人、柏木が死の直前に会っていたある人物の存在。
その人物が語る真実。
それは、悲しみの告白…。
事件のキーは言うまでもなく、死んだ柏木。
彼が抱える心の闇。
居て欲しかったのだ、自分と同じ存在が。
気付きたくなかったのだ、自分を分かってくれるその人物を。
“その人物”は自分を裁いて欲しいと訴える。自分は偽善者であり、全て自分に否があると。
が、この学校裁判は裁く為の裁判ではない。
その人物に否があるとしたら、皆に否がある。
その人物だけだろう。柏木に手を差し伸べたのは。
真実が判明すると、必ず傷付く者が居る。
それはどうしようもない、避けられない運命。
それが当人たちのこれから生きていく上でどう影響するか、誰にも分からない。
が、全てを踏まえた上で少年少女たちは前に進む。
全てを受け止めた涼子の眼差し、佇まいが忘れ難い。