「映像と脚本が素晴らしい」パッセンジャー アラカンさんの映画レビュー(感想・評価)
映像と脚本が素晴らしい
2D 字幕版を鑑賞。地元の映画館で上映してくれなかったので,片道1時間半かけて天童まで出かけて鑑賞したが,出かけた甲斐はあった。映像がまず素晴らしかった。亜光速の宇宙船に乗って冬眠状態で 120 年かけて地球から移民するという設定の話である。巨大な宇宙船の中に,クルーが 280 名ほどと,乗客が 5,000 名いるのだが,ある事故によって一人の乗客の冬眠装置が故障して,出発から 30 年で目覚めてしまったところから話が始まる。目覚めた乗客の専門がエンジニアということで,修理や再冬眠の方法を探るのだがうまくいかず,目的地への到着は 90 年後のことで,到着するより前に船内で死亡するのは明らかという状況に置かれてしまう。
まず,この話の発端が秀逸で,映画の最初は途方もない孤独感を見事に表していた。宇宙船の窓から見えるのは,息をのむほど壮大な銀河系の姿で,その中で起きて活動しているのは自分だけという状況に,絶望感しか湧いてこないのが実に切実に描かれていた。そんな中で,上半身だけ人間の形をしたバーテンロボットのアーサーが唯一の話し相手となるというのも,孤独感をさらに増すための巧妙な仕掛けであった。このアーサーは,物語上で非常に重要な役割も果たすのだが,その話は割愛する。
脚本は,実に見事なものであった。2時間足らずで終わってしまう映画とは到底思えないほど内容が豊かであった。特に,主人公のしでかした過ちによる深い負い目と,それに翻弄される相手の気持ちが痛いほど伝わってきた。もし,自分が同じ状況に置かれてしまったら,という想像力を掻き立てる話で,まるでワーグナーの楽劇のような深いテーマ性のある話であった。
宇宙船は,「2001 年宇宙の旅」のディスカバリー号のように,進行方向に対して垂直に回転しながら飛行して,遠心力による擬似重力を作り出すという方式なのだが,宇宙船のトラブルでその回転が止まってしまうと,いきなり無重力状態になってしまうことになる。何度か出て来る無重力状態の表現が実にリアルで感心させられた。その一方で,宇宙船のエネルギー源は,どう見ても核融合のようなのだが,その遮蔽にガラスが使われていたところには開いた口が塞がらなかった。核融合のプラズマの温度は1億 ℃ にもなるが,ガラスは僅か 1,000 ℃ ほどで溶けてしまうのである。
役者は,主人公が「ジュラシック・ワールド」の猛獣使い役の人であった。スポーツマンタイプのイケメンであることが,この話を成立させるための絶対的条件であろうと思われた。これが森永卓郎のようなブサイクなオッサンだったら,ホラー映画になってしまうところである。相手役はジェニファー・ローレンスで,登場人物の極めて少ない映画なので,こういう美形だけが画面に出て来るのは有り難かった。ジェニファー・ローレンスといえば,iCloud にアップしたプライベート写真が流出して騒ぎとなったことでも記憶に新しいが,見たがる人が多いのも頷ける話のような気がした。また,「マトリックス」のモーフィアス役だった人も久々に登場していた。
音楽はトーマス・ニューマンで,「ショーシャンクの空に」や「グリーンマイル」で聞かせてくれた深く胸を打つ作風が健在であった。この作品にはこうした音楽が不可欠だろうと思った。演出は,物理的におかしなところがいくつか散見されたが,作品の出来を根底から覆すほどのものではなかったように思う。日本語字幕は「キングコング 髑髏島の巨神」と同じ人だったが,こちらの方はあまり違和感がなかった。全米公開から僅か2週間後に公開という素早さも評価されるべきだと思った。
(映像5+脚本5+役者4+音楽5+演出4)×4= 92 点。