「シュワちゃん×ゾンビ=ヒューマンドラマ!」マギー 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
シュワちゃん×ゾンビ=ヒューマンドラマ!
アーノルド・シュワルツェネッガー初のゾンビ映画。
ゾンビ・ウィルスが蔓延した世界。
生き残った人々はモーテルに逃げ込むも、絶体絶命。
その時、一人の男が立ち上がる。銃をぶっ放し、食い止め続ける。
が、遂にゾンビ群がモーテルに雪崩れ込んでくる。
「I'll be back!」
男はそう言い残し、ゾンビ群の中へ…!
…的なシュワちゃんがミラジョヴォばりにゾンビとバトルを繰り広げるのを誰もが思うが、アクション映画ではない。
またゾンビ映画でありながら、ホラー要素も薄い。
意表を付くヒューマンドラマ・タッチ。異色の“ゾンビ映画”で“シュワちゃん映画”。
娘マギーがゾンビに噛まれ、感染。施設に隔離される。
父ウェイドはマギーを探し出し、家に連れ帰る。
徐々にゾンビ化していくマギー。
周囲と対立、家族と不和になりながらも、ウェイドは娘を守ろうとするが、決断の時が迫られる…。
シュワちゃんなのにアクションが無いなんて…。
ゾンビなのにちっとも怖くないなんて…。
展開は淡々と静か。
落胆や期待外れの声も多し。
が、個人的にそこが面白味であった。
アクションを一切封印したシュワルツェネッガーが円熟の演技を見せる。
父親として変わりゆく娘を守りつつ、どうしたらいいか分からない苦悩。
勿論シュワちゃんにはまだまだタフな姿を見せて貰いたいが、年相応の役柄もたまにはいい。
プロデュースも兼ね、聞けばノーギャラだとか! そこまで惚れ込み、意気込んだ入魂の演技は一見の価値あり。
アビゲイル・ブレスリンもさすがに巧い。
別の作品ではゾンビとコミカルに戦うが、本作ではゾンビと化していく。
指や身体が次第に腐食。ある時衝動的にキツネを襲う。自分が自分じゃなくなっていく。
その恐怖、苦しみ、悲しみ…。
いつも思うが、あの『リトル・ミス・サンシャイン』の女の子が立派な実力派になった。
二人が魅せる父娘愛はドラマの要。
ホラー要素は薄いが、サスペンスタッチは漂い、リアリティーのあるドラマが展開していく。
感染者は隔離。感染していない人々の安全を守るのは分かるが、中にはまだ(マギーのように)初期症状で人間としての意識がはっきりしている者もおり、社会全体の絶望感が作品にも表されている。
症状が進行していく様はリアル。これはゾンビ映画の中でも特筆点では…?
マギーを連れ帰った為、安全を考慮し、幼い弟妹は家を出、残ったのはウェイドとマギーと義母。マギーの事は実の娘のように愛しているが、症状進み、キツネを襲った件で堪えられなくなる。家族間の不和も生々しい。
感染してしまった隣人家の父と娘と出くわし、ウェイドは…。彼らの奥さんが二人が感染していながらも匿っていた。ウェイドも今まさに同じ事をしている。
彼らの空き家を訪れるウェイド。自分たち家族もこうなるのか…?
マギーの症状はいよいよ限界に。決断迫られる。
当局で抹殺処分か、それともこの手で…?
結果的にウェイドはマギーに何かしてあげられたのか…?
マギーはちゃんとそれを感じていた。
苦悩する父の為に、マギー自ら決断したのは…。
悲しいラストだが、ゾンビ映画としてもシュワちゃん映画としてもなかなか新味あった。
ゾンビ作品で従来見落とされてきたのがこの作品で表現されています。
ルール それに従わなかった隣の家族にシュワちゃんは発砲しました。
気分は最悪ですが、それでよかったんだと自分を納得させます。
しかし実の娘が今まさに変化しようとしている。
シュワちゃんは寝たふりをしていると思われます。
彼にとって、「その結果」を受け入れた瞬間だったのかもしれません。
それは奇しくも、隣人家族と同じ決断だったのです。
この悲しい物語こそ、ゾンビ作品の真骨頂だと思いました。
その葛藤の中心がほかならぬ「マギー」だったわけです。