「破られない月」紙の月 おちゃのこさんの映画レビュー(感想・評価)
破られない月
そそられるテーマ。
個人での横領のニュースをきくたびに、
正直なところわくわくする。
もちろん倫理的にアウトだし、紛れもない犯罪なのだけど、犯人は何にお金を使ったんだろう?と巡らせたり、「宝くじ当たったらどうする?」といった話題に通じるような手の届かないロマンを感じてしまう。
こちらの映画はそんなミーハーお茶の間心を満たしてくれるような気がして、ずっと気になっていた。てっきり若い男に溺れ、貢ぐために横領し、身も心もボロボロに…という話だと想像していたのだけど、実際には一癖ある映画でおもしろかった。観賞後に監督が吉田大八さんだと知って納得。この方の映画、とても好みだ。
「腑抜けども…」、「クヒオ大佐」、「パーマネント野ばら」、「美しい星」をかつて鑑賞したことがあるが、並べてみるとどの映画も人間の痛さや弱さを全面に、絶妙に突いていて、言ってしまえば世間的に「イタい人」主人公みな変人なのだけど、どの主人公もその信念を決して曲げず、でもその信念は真理さえも突いている気がして、観ている側としてはこの映画の小林聡美さんのように、信念を貫き通す主人公を結局止めることなどできないのだ。その主人公たちの姿や信念は真似したくないし真似できないのだけどどこか羨ましくもあり、多分好きになってしまっているのだろう。小林聡美さん的ポジションで、この監督の他の映画も観てみたい。
この映画の主人公の横領は、過度な募金精神から始まる。幼い頃に「良いこと」として教えられたことが傾いていく。募金に限らず、幼い頃に教えられた「良いこと」に縛られている大人はたくさんいると思う。揺るぎない「良いこと」信念には、要領の加減によってそれが「良くないこと」に傾くという思考が入る余地などない。暴力的な正義の起源は全てそこにある気がする。
何事もほどほどに。でもやっぱり宝くじ当てたいし横領した犯人にこれからもロマンを感じてしまうだろう。蓋を開けてみれば、そこには到底持続不可能な刹那的な快楽しかなかったとしても。