「羅針盤のない船」ホームレス理事長 退学球児再生計画 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
羅針盤のない船
もともとは、学校を撮ろうと始まった企画で、「ホームレス」理事長は主役ではなかったという。
次第に、理事長が面白いとなったようだが、映像は野球の現場や生徒の話の方が多い。
映画の題名は、目を引くための制作側の売り込み戦略でもあるだろう。
この「ルーキーズ」というチームは、運営はともかくとして(笑)、インフラ面では決していい加減な組織ではない。
廃校を利用して、とりあえずグラウンドも持っているし、チームバスがあり、生徒が高卒の資格を取れるようにしている。
学校まで辞めてしまった、全国から来た“高校生”たち。しかし、その立派な体格は、並の高校生ではない。
ワケありの監督。しかし、その実績は確かである。
問題は、生徒の定員割れとスポンサー不足による資金難であり、どこにでもある話だ。
だから、この「ホームレス」理事長を批判する人が多いらしいのには驚く。
前例のないことをやれば、前例のない“つまづき”が生じるのは当たり前だ。
“羅針盤のない船”なのだ。
また、「体罰」の映像も問題になったらしい。
冒頭で、生徒が「刑務所」だとか、「逃げられない」とか言っていた。
「戸塚ヨットスクール」を扱った映画「平成ジレンマ」を観た後だったので、「ここもか?」と思ったが、そうではなかった。
自分も体罰を是認しない。しかし、常態化しているわけではなく、現場の立場に立って、もう少し精査する必要がある。
自傷行為をする生徒を知りながら、「勝手にやれば」と見向きもしないことが良いことなのか?
苦痛なのは体罰そのものよりも、生徒の心身に対する長期の“拘束”や、理不尽な支配関係だろう。かくいう自分は、教師に殴られた時は、殴られた痛さよりも、その理由の理不尽さに腹が立ったものだ。
確かに、中には「本当に野球がやりたいのか自分でも分からないが、周囲の人のためにも参加している」という子もいる。
しかし、基本的に野球をやっていれば幸せな子たちであり、ここに居ることを望んでいるように見えた。
じっくりと取材したことが分かる、良い作品だった。
賛否両論はあるだろう。
いや、本当のところは、題名といい、わざと賛否両論のタネを蒔く、東海テレビらしい“あざとさ”全開のドキュメンタリーと言うべきだ。
ただ、現実とはそのまま映せば、かくも混乱に満ちたものだということでもある。