劇場公開日 2014年8月23日

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「人生の黄昏時に」グレート・ビューティー 追憶のローマ 玉川上水の亀さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0人生の黄昏時に

2014年8月8日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

悲しい

知的

難しい

歴史と芸術、そしてカトリック教の古都ローマを舞台に、65歳の作家でジャーナリストのジェップ・ガンバルデッラの魂の彷徨を描いていく。
本作品は冒頭から死が影を落とす。
映画の中で描かれる幾つもの様々な死は何の前触れもなく登場するので、時に主人公だけでなく我々も置き去りにされてしまう。
そして、これらの死の影を払拭するように何度も乱痴気騒ぎのパーティーが登場し、観ている方も思わず心沸き立つ。
主人公の作家は筆を折って長いこと作品を発表していない。
その理由は映画の中で主人公自らが明かしてくれるのだが、その倦む気持ちは何となく私には分かる。
主人公は私よりほぼ一回り年上だが、人生も終盤になると、現世に対する達観や諦念に囚われてしまう。
作家としてその著作により一角の人物となり、ローマのセレブ界でも有名な主人公であれば尚更だろうと思う。
自らを「俗物の王」と名乗る彼に、ある日初恋の人の訃報がもたらされる。
彼女の死によって虚無に陥った彼は、人生の価値や「偉大なる美」を求めて魂の彷徨を始める。
主人公が彷徨するローマは、登場する夫々のシーンが一幅の絵のように美しい。
その絵に寄り添うような音楽が、時に切なく甘く響き心の琴線に触れる。
本作品でアカデミー賞やゴールデングローブ賞の外国語映画賞を受賞したパオロ・ソレンティーノ監督は様々なメタファーやキーワードを鏤めて、世俗に塗れたこの世の中にある一瞬の美や尊さを垣間見させてくれる。
魂の彷徨の果てに主人公が見出したもの、そして再び筆を執るかどうかは観客の想像に委ねられている。

玉川上水の亀