「ジェップを形作る描写をローマと共に」グレート・ビューティー 追憶のローマ つとみさんの映画レビュー(感想・評価)
ジェップを形作る描写をローマと共に
ローマの風景とともにお届けする、創作するためのエネルギー、芸術、そして生きるとは、を描いた作品。ナビゲーターはその全てに関わりのある主人公ジェップ。
ジェップはなぜ小説を書かないのか。そのためのエネルギーを失ってしまったからと次第に分かってくる。
享楽から始まり、その裏にある無為な人生と謎のアート。人々はエネルギッシュに生を謳歌している。ジェップは享楽の輪の中にエネルギーがあるかもしれないと身を置くが、その輪からは漏れているように見える。
それでもローマを離れることはない。いつか訪れるかもしれない創作の意欲を待っているのかもしれない。
ジェップを動かしていたものは恋だった。
最初の恋のときに書き上げたものが彼の代表作で、それ以降書いていない。
新たな恋を求めてローマを彷徨っていたものの未だ掴めていない。それは最初の恋を引きずっていたから。
しかし、彼女の死の知らせがジェップに変化をもたらす。
初恋の相手もジェップを想い続けていた話はどこまで真実か分からないけれど、もう戻ることがない恋は、空っぽになっていたジェップのタンクにガソリンを注入した。
一見無秩序に見える出来事の連続が、ジェップというキャラクターを形作り、やがて収束していく様は面白かった。
過去の恋のパートをほとんど描かないのも良い。二人の恋を観る側が勝手に最大化できる。なぜ別れることになったのかも含めて。
ところどころジェップの妄想のシーンが挟まる。ある意味でこの作品の全てがジェップの内面であったのかもしれない。
ローマの景観と共に、彼の中の様々な感情が描写され続けたのだ。
ジェップの創作だけでなく、誰でも生きるためのエネルギーがいる。それを見出だせずにいると無駄な人生を過ごしてしまうことになる。ただ生きているだけではいけないのだ。