「イタリア人にとっての「ローマ」」グレート・ビューティー 追憶のローマ talismanさんの映画レビュー(感想・評価)
イタリア人にとっての「ローマ」
主人公ジェップ(トニ・セルヴィッロ)の65歳を祝うゴージャスで素敵で下品な誕生日パーティーのドンチャン騒ぎがしばらく続き、人混みの中で振り返る笑顔のトニ。映画がある程度進んでからやっとの登場なのでトニのファンはとてもじらされる。それ程、ソレンティーノ監督はトニの出し方が上手い!
25歳の時に出版した小説で文学賞をとり、一躍文壇デビューしてその後1冊も書いていない作家のジェップ。インテリで金持ちでローマ中のセレブと知り合いでパーティーに明け暮れ昼夜逆転の日々を過ごすジェップは、半分世捨て人に見える。そういうジェップが友人達と女性編集長と家政婦とかわすお喋り、言葉が皮肉たっぷりだったり、攻撃的だったりする。本心でもあり演じてもいるような気もする。言葉を発しない沈黙のジェップは、見ている、聞いている、感じている。そんな所にトニの存在と演技力が半端ないことがわかる。
ジェップが登場してから海のイメージが出てくる。海は彼にとって初恋で若さで小説だ。その海にまた向かって生き始めることに、遅すぎる、ということはない。映画の冒頭からあちこちに死が散りばめられていても、いるからこそ、生は美しい。
色々な人物が登場する中で印象的だった3人。「天才画家」であるまだ子どもの女の子、古くからの友人の娘でいい年なのにストリッパーをしている女性、そして狂気の世界に住んでいる青年アンドレア(ルカ・マリネッリ)。アンドレアは体全部を真っ赤に塗ったりしてる。心配するママに僕は狂っていないと言う。彼の眼が強くて忘れられない。車を猛スピードで運転して途中で目を瞑る…。教会の葬式では、アンドレアの棺を担ぐ「友だち」が誰も居なかったことに涙が出そうだった。ジェップが自分の友人らに目で合図して、アンドレアからしたら親世代の年齢の男性たちが立ち上がる。葬式では泣いてはいけない、遺族がすることだから、と言っていたのにジェップは棺を肩にして激しく泣く。
そのアンドレア役のルカ・マリネッリが「マルティン・エデン」で主人公マルティンを演じている。適役だった。逞しい身体と何より眼!
しばらくぶりに見たら、見落としていたり勘違いしていた箇所が沢山あった。好きな映画ほど、時間をおいて何度か見るのはやっぱりいいなと思った。イタリア人の美的感覚をインテリア、服、靴、化粧、髪型で改めて確認!(2020年9月24日)
さらに追記:音楽と映像の関係がとてもいいと思いました。それから言葉。すぐ暗記できない悲しい頭の自分、かといってすぐさまメモすることもできない自分!そんな自分にがっかりしながらその言葉を正確ではなく、でも自分なりに捉えようとする。そんなことができるのでこの監督の映画に私は惹かれるのかもしれない。