「他者の歴史に、自分の生き方を探る」リスボンに誘われて ロロ・トマシさんの映画レビュー(感想・評価)
他者の歴史に、自分の生き方を探る
現在より前の時代の出来事や、その時を生きた人物の行方を探って行く近代歴史探索ミステリー(こういう呼称が正しいのかは分かりませんが)のジャンルって結構自分の好物で、最近だと『サラの鍵』や『あなたを抱きしめる日まで』なんかを楽しんで鑑賞しましたけどもね(『あなたを~』は少し毛並み違いますけど)。この『リスボンに誘われて』は、その系統の中でも群を抜いて気に入りました。とても良かったです。
やあ、染みましたよ。
激動の重苦しい時代を生き抜き、その渦中で生涯を終えたリスボンの医師アマデウ。彼が生前に執筆した一冊の本。偶然それを手にした老齢の高校教師ライムントは、アマデウの生き様に激しく魅了されてしまう。自ら湧き上がる衝動を抑えられないライムントは、職場から飛び出して、スイスからリスボンへそのまま単身で渡ってしまう。ライムントはアマデウ縁の住所へ赴き、家族や友人知人を訪ねて歩き、彼の辿った軌跡を追体験していく……というお話で。
現在と過去の出来事が交互に映し出され、相互に少しづつリンクしていくという展開は、このジャンルの常套ですよね。そのテンポというのかな、結構サクサク進むんです。確かにミステリーではあるんだけど、殆ど引っかかりがないというか。探るべき道を周囲がちゃんと示してくれるというかね。
そこまで「謎解き」って訳でもないもんですから、あっさり物語が進行しちゃって。で、下手したら「いやいや唐突すぎね?」ぐらいのお軽い印象持たれてもおかしくないんですよね。なのに、あまりそこに違和感を抱かないのって一体何なんだろうな?て思いながら観てたんですけども。多分、それはライムントを演じてるのがジェレミー・アイアンズだったからなんじゃないかな、と。彼の持つ演技の説得力というか、役に人柄の良さや誠実さ率直さが滲み出てるというのかな。「この人にだったらアマデウのこと教えてあげてもいいや」ってなっちゃうんですよね、劇中の人物達が。そして多分、鑑賞する側もそれを無意識で受け入れてる。
鑑賞後には深い満足感と同時に、嗚呼もっとライムントと無我夢中にあの時代を探っていたい!観続けていたい!という物足りなさというか、欲求も生まれて。わりかしね、歴史を探っていくお話って複雑な時代背景や難解な人物相関だったりすると、観てる最中に現実に引き戻されちゃったりするんですけど、この映画に関してはそれが一切なかったです。分かり易かったですし。どっぷりとアマデウの生きた時代に浸っておりましたから、自分。
もう一回言いますけど、やあ、染みましたよ。