「闇が深い」ゴーン・ガール 古泉智浩さんの映画レビュー(感想・評価)
闇が深い
結婚で恋が終わって憎しみが始まる、悲しい話であった。
夫婦は「お互いに支配し合う関係」という言葉がこわすぎる。エミリーが頼った元カレが、人のリモコンを勝手に奪うような、他者を尊重する気持ちに欠ける人物で、しかしそんな面はエイミーにもあり、「こいつ自分よりやばい」と思って殺したのだろうか。殺せばうまく辻褄が合って元の家に戻れると計画を立案したのだろうか。その計画立案が、ニックの記者会見の後だか前だか忘れてしまったのだが、だとしたらサイコパスであり、理論が独自すぎるので何を話し合っても無駄で、こわすぎる。
エイミーは聡明で、そんな自分自身も嫌だと思うのだが、それでもそうしてしまうほど人格の根っこの部分の闇が深いのだろう。
冒頭の恋の始まりの会話も非常に嫌ったらしくて、主人公なのになんかこの人たち好きになれないな~と思っていたらやっぱりそんな感じだった。また、タイトルで「ガール」と言っているけど、けっこうな年の女で「ガール」はないと思っていたのだが、ガール扱いをいつまでもされたい厄介なタイプの女で、タイトルに偽りはなかった。
エイミーは誰よりも自分が一番賢いと思っていて実際賢くて、周囲の全員を見下して夫も見下して友達もいない。そんな彼女であっても純粋にニックを好きであった時期はあったはずで、かつてのレイプ犯に仕立て上げた恋人にも純粋に恋をしていた時期もあったはずだ。しかしそれ以上に自分自身が好きで、自分の思い通りにならない相手を憎み始める。
エイミーはあれほどの計画を周到に準備して遂行するのはきっと楽しかったに違いない。それが人を陥れるものだとしても、それが計画通りに運んで世間を手のひらの上で転がすようなことが成功してさぞワクワクしたことだろう。金を盗られた時はざまあって感じだった。あの強盗カップルが、元カレの殺人の遠因になっていると思うと、世の無常と無情を感じる。
会見に備えて、顔にグミをぶつけられながら練習する場面が楽しかった。