「私も、ハッピーエンドが好きです」チョコレートドーナツ といぼ:レビューが長い人さんの映画レビュー(感想・評価)
私も、ハッピーエンドが好きです
多くの映画レビュアーさんたちが口をそろえて「素晴らしい映画だ」と言っている本作。日本公開時に1館のみでの上映しかなかったところ、映画コメンテーターのLiLiCoさんが積極的に働きかけて全国140館規模にまで拡大したそうです(LiLiCoさんご本人が語っています)。
作品のざっくりとしたあらすじだけ知っている状態での鑑賞でした。
結論ですが、非常に素晴らしい映画でした。
今以上に性的マイノリティ(LGBTQ)に対して差別的であった1970年代のアメリカで、ゲイのカップルとダウン症の男の子が疑似的な家族として一緒に暮らす物語。血のつながりや戸籍上の関係は無くても、そこには何者にも断ち切れない強い絆があります。ラストの展開は思わず涙がこみ上げてくるほどに悲しく美しい終わり方でした。ラストの展開に対しては「胸糞」と言っている人もいらっしゃるみたいですが、私は「胸糞」というより、とにかく「悲しい」という印象でしたね。
・・・・・・・・
同性愛に対しての偏見が強かった1970年代のアメリカ。歌手を夢見ながらショーパブでパフォーマーとして働いていたルディ(アラン・カミング)は、客として来店していたゲイであることを隠して検事局で働くポール(ギャレット・ディラハント)と恋仲になった。ある日、ルディはアパートの隣室に住んでいたダウン症のマルコ(アイザック・レイバ)が母親から育児放棄されている現場を目撃。そしてその母親が薬物で逮捕されてマルコが独りぼっちになってしまったのを知り、自分が親代わりとして彼を守ることを心に決めたのだった。
・・・・・・・・
この映画を観て真っ先に思い浮かべたのは、2020年に公開された草なぎ剛主演の名作映画『ミッドナイトスワン』でした。「トランスジェンダーの主人公」「育児放棄された子供」「疑似家族として絆を深める」「トランスジェンダーであるが故の社会からの偏見」などなど、共通する部分が数多くありました。公開順で言えば『チョコレートドーナツ』の方が6年も早いので、『ミッドナイトスワン』は本作の影響を色濃く受けてるのかもしれません。冒頭は「展開が似ているからストーリーも同じ感じかな」と思っていましたが、ストーリーが展開していくにつれて『ミッドナイトスワン』とは全く違う展開になっていったので、新鮮味を感じながら鑑賞することができました。
前半はルディ・ポール・マルコの三人が、社会の偏見がありながらも家族として絆を深めていく非常に美しい展開です。私はこういう「疑似家族モノ」に弱いので、ほっこりしながら鑑賞していきました。マルコを演じるアイザック・レイバの表情の演技が素晴らしく、彼の笑顔を観るとこちらまで笑顔になってしまいますね。
しかし後半、彼らの絆を引き裂くような重く悲しい展開が待ち受けています。社会制度や偏見によって、幸せに思えた関係が唐突に終わりを告げます。マルコはルディとポールから引き離され、釈放された母親に預けられ、母親は相変わらずクスリと男遊びばかりの育児放棄。マルコは自分の家を求めて町を彷徨い、最後には橋の下で……。前半の幸せが嘘のような、あまりにも悲劇的な展開です。
ルディとポールが迎えに来てくれるのを楽しみにして、荷物をまとめて待っていたマルコ。母親に引き取られた後に「おうちじゃない」とずっと言っているマルコ。思い出すだけでも涙が出てくるようなシーンですね。
最後にポールが裁判官や検事局の元同僚に対して手紙と新聞の切り抜きを送るシーンも観ていてキツかったですね。手紙を受け取った彼らも自分のやったことに多少の罪悪感を抱くことになったでしょうが、「こんな悲しい復讐劇があるか」と、なんとも言えない悔しい気持ちになりました。
前半の幸せな展開から後半の悲しい陰鬱な展開への落差があまりにも大きくて、これが「胸糞映画」と言われる所以なんでしょうね。『セブン』みたいな胸糞映画とは違うタイプの胸糞。個人的にはどちらかと言えば「儚く美しい」って感じの印象を抱いたので、あんまり「胸糞」には思えなかったですけど、元気な時に観ないと数日引きずるタイプの映画でした。
もしかしたら観ていて辛く感じる人もいるかもしれませんが、絶対観て損しない素晴らしい映画でした。私が今年観た映画の中で間違いなくベスト3に入ります。オススメです。