グランド・ブダペスト・ホテルのレビュー・感想・評価
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全てにおいて〜大好きっ!
ウェス・アンダーソン監督には毎度やられっぱなしデス
舞台美術・衣装・小物に至るまで
彼の手にかかれば可愛らしく
とってもファッショナブルな仕上がり
ビビットでポップな映像はディテールチエックしたいから 2回は観たいっ!
ファンタジーとミステリーを織り交ぜた物語もテンポ良く進み
クスッと笑わずにはいられない
時代ごとの画面サイズ変化
徹底してシンメトリーな画面
彼のこだわりが随所に感じられて
またしても腕を上げた感が満載
オシャレでカワイイだけの映画ではない。
ウェス・アンダーソンの美学が細部にまで徹底された、色鮮やかで美しい世界が素晴らしく引き込まれますが、それだけの映画ではないと感じました。
タッチはあくまでも軽妙ですが、
戦争や権力を前に抗いきれず儚く消えてしまう理想や希望、未来、しかし確かにそこにあった『光』と、それを潰してしまう『力』の残酷さ、また『力』の台頭を見逃さないことについて考えずにいられません。
( 政治的メッセージを前面に押し出す作品ではないと監督がインタビューで言っていますが。)
この映画のモチーフであるシュテファン・ツヴァイク(の生涯と著作)について知ると、より深くこの映画を楽しめると思います。
(町山智浩さんがラジオ番組で紹介していて知りました。パンフレットにも載っています。)
過ぎ去った栄華を可笑しみとともに鑑賞した
前々からウェス・アンダーソン監督の作品は観たいと思っていた
。本作が初めての鑑賞となる。
ブダペストと名のつくものの、存在しない東欧の小国にあるホテ
ル。その栄枯盛衰を通して、古き良き時代への感傷を描く本作。
全編を通して、美しきヨーロッパの栄光と退廃を味わえる映像美
が印象的である。そのカメラワークは変幻自在の技を見せる。あ
る時はわざと書割調にして。ある時はわざとくすんだ風に。また
ある時はモノカラーで。それも、これ見よがしというのでない。
CGを駆使した技術の押し売りでもない。あえて映画は作り物です
よ。と見せつけておいて、それでもなお見る者の心を懐かしき過
去へと誘う。これはなかなか出来ないことかもしれない。この相
反する感覚こそが、本作を印象付ける点である。
映像だけではない。本作の舞台は東欧の国と見せかけておいて、
実は架空の国。微妙に史実と食い違うエピソードの数々が本編を
覆う。そのずれが何とも言えないおかしみを本作に与える。描か
れているストーリーや映像はかなりブラックなものも含まれる。
それにも関わらず、くすりとした笑いが随所に挟まれている。登
場人物に奇矯な行動を取るものはいない。真っ当な人々がそれぞ
れの人生の一片を披露する。それなのに登場人物たちをみている
となんとも言えない可笑しさが心に満ちてくる。
本作の構造は4重構造である。ステファン・ツヴァイクをモチー
フとした作家の墓を訪れる若い女性。これが現代。続いて1985年
。老いた老作家が自分の創作の秘密を語る。そのうちの一つのエ
ピソードを披露する。それが1968年。壮年の作家はグランド・ブ
ダペスト・ホテルで謎めいた老人と知り合い、その人生を聞く。
その老人がホテルで働き始めたのが1932年。物語の殆どは1932年
に語られる。なぜ4重構造という持って回った構成なのだろう。
そもそもこの点からして一見真面目そうに見えて可笑しさがある
。これもまた、監督の仕掛けた隠れた笑いの一つ。
この一風変わった物語を彩る俳優陣がまた凄い。いちいち名をあ
げないが、主役級の人々がずらり。その中には私が好きな俳優も
いる。でも何といっても、主役のレイフ・ファインズの演技に、
真面目な中に一匙のユーモアという本作のエッセンスが込められ
ているといえるだろう。
是非とも他の監督作も観てみたいと思った。もっとも一緒に観た
次女はそうは思わないかもしれない。これはあくまで大人の映画
である。アナと雪の女王をもう一度見たいと言っていた次女には
悪いことをしたかもしれない。「こわかった」と感想を漏らして
いたし。
'14/6/8 イオンシネマ 多摩センター
スタイリッシュ殺人事件。
殺人事件なのに怖くない!
(グロ描写は少しありますが)
カラフルでオサレな雰囲気の中で(ピンク、カーマインの色遣い!)
チャップリンみたいな人がせせこましく動いているといえば
イメージしやすいでしょうか。
ウェス・アンダーソン監督の作品は初視聴。
とにかくオシャレな予告に惹かれて観に行きました。
物語の本筋は
コンシェルジュとベルボーイの痛快道中記といいますか。
殺人容疑をかけられたコンシェルジュが
ベルボーイと共に奔走しながら真実を暴いていく物語です。
殺人事件の映像というと、とにかく
恐怖・凄惨・動機が…、というイメージから
逃れられない感じがありますが
この映画は、まず
・展開が流れていくテンポが良い。
(上映の途中でわざわざChapter ○と説明が入る親切ぶり)
さらに
・どこかハイカラだろ?と思わせる音楽と映像。
殺人事件にありがちな雰囲気の重さを一掃しています。
動機が初めから分かっているのも、ラストでのがっかり感がないので◎。
よく、「こんな壮大な事件にちゃちい動機だな…」と
思ってしまうことがサスペンスミステリーってありがちじゃないですか。
それがないのがいいですね。
生○とか指○断とかの映像が、予告もなくあっさりと出てくるので
そういうのに耐性が無い人がちょっとご注意を。
どんな場所でも(刑務所の中でも)
どんな人にでも(囚人でさえ、ゼロの彼女でさえ)
自分のホスピタリティを人に惜しまず提供し、皆を虜にするグスタヴH。
どこか抜けた感じがあるが、グスタヴHに必死についていく感が
可愛い感じのある、ゼロ・ムスタファ。
二人の凸凹コンビを観ていて飽きる事がありません。
公開当日に観に行きましたが、カップルの方をちらほら見かけました。
そこそこデートムービー向けなのかも?しれません。
ハプニング映画とも言えるし、そうでないとも。
次から次に起こる事件。
画面内は、グスタフのおかげで、平静を保とうとしている。いや、余計に騒がしくなっているのか。
美しい英語と美しいコスチュームを着こなせるそれぞれに合った所作。
本物のロケ地が盛況だったり寂れたり。
なんだ、西洋人もちゃんと知ってる。
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり。
こんな真面目そうな設定なのに、いちいちブラックな笑いで息つく間もない。
110分が短く感じる。
俳優陣にも大満足。
もう一回見ようかな。
予想外の怪作
レイフ・ファインズの印象がどうしても『シンドラーのリスト』で恐々観てしまいますが、本作品では良く話しまくり、やはりある意味怖いです。
そしてブタペストホテルって言うくらいだから、異国情緒を誘う映画かと思えば、細かく作り込んだ虚構の世界のようです。日本人も『テルマエロマエ』というデタラメローマ時代の映画を作っちゃいましたが、ローマがノー天気なのに対して、ブタペストは少し不気味なので、ちょっとキューブリックの『シャイニング』みたいです。ただ、コメディーの要素もかなりブラックながらちりばめられていて、複雑なというか多彩な映画でした。
不思議アート系喜劇映画
英独合作映画
ベルリン国際映画祭オープニングに上映。審査員グランプリ受賞作品。
ストーリーは
仮想の国、スブロッカ。第一次世界大戦が終わり、第二次世界大戦の始まる前のヨーロッパで、一番豪華で人気の高かったホテルのコンセルジュ、グスタフ氏のお話。
世界中からお金持ちの女性が、グスタフ氏にお世話をしてもらいたくて、休暇をとって会いにやってくる。グスタフ氏は、最も有名で、お金持ちの間でもてはやされているホテルマンだ。彼は、山の頂上に立つヴィクトリア風の美しいホテルで、ホテルにやってきた女性たちを一人一人大切にもてなして、アルプスの山々の景観を楽しんで休養してもらうために、ホテル最大のサービスを提供する。グスタフ氏は、新しいベルボーイを連れて、いつもいつも忙しい。ベルボーイの名前はゼロ。どの国から、どうやってブタペストまでやってきたのか誰も知らない。教育ゼロ、勤務経験ゼロ、でも、とにかく気が利くのでグスタフ氏のお気に入りだ。
ある日、グスタフ氏をことのほか気に入っていた年寄りの女性が亡くなった。グスタフ氏はゼロを連れてお葬式に行ったところ、ちょうど遺書が開封されるところだった。亡くなったおばあさんの親戚が全員集まっている。おばあさんの遺書によると、遺産はルネッサンス時代の名画ひとつだけ、、、これをグスタフ氏に贈るという。遺族たちは怒り心頭、グスタフ氏を罠に落とそうと画策する。皆で口裏を合わせて、おばあさんはグスタフ氏によって毒殺された、というのだ。
グスタフ氏は逮捕され刑務所に送られる。
刑務所でもグスタフ氏の誰にでも気分よく過ごしてもらうホテル式サービル精神は変わらない。グスタフ氏は刑務所仲間から評判が良くて、とても大事にされている。一方、グスタフ氏のいなくなったホテルでは、毎朝全職員がグスタフ氏のスピーチを聴きながら、そろって朝食をとることになっていたが、いまは、刑務所からゼロが受け取ってきたグスタフ氏の手紙のスピーチを、ゼロが読んで朝食をとることになっていた。ゼロはキッチンのパン焼き係りの少女と結婚する。このお嫁さんが、刑務所に、パンとケーキに鉄やすりやシャベルを忍ばせてグスタフ氏に差し入れをする。グスタフ氏は同室者5人で、刑務所脱走に成功。迎えに来たゼロと一緒にホテルにもどる。
そうこうしている間に、おばあさん殺しの真犯人がわかり、グスタフ氏の無実が証明された。しかし、第二次世界大戦の不穏な波がブダペストにも及んでいた。ある日、グスタフ氏がゼロを連れて鉄道で移動する途中、独軍に捕らえられ二人は引き離された。そしてそのままグスタフ氏は行方不明になってしまった。グスタフ氏は、どんなところで生まれ育ったのか、自分のことは誰にも言ったことがなかった。そして突然居なくなってしまった。ゼロはグスタフ氏を待ちながらホテルに留まっていたが、もう年を取ってしまった。
かつてヨーロッパで一番立派だったホテルも、グスタフ氏をなくして今はもう見る影もない。戦前からこのホテルを贔屓にしてくれた人々が時たま思い出したかのように、訪れるだけだ。すっかり年を取ってしまったゼロは、それでもグスタフ氏を待ち続ける。
というお話。
ストーリーにすると、こんなお話だがこの映画は喜劇で、話の筋やストーリー展開ではなく、一コマ一コマを笑う映画だ。早いピッチでシーンが変化して画面の面白さで笑わせてくれる。ちょうど喜劇の舞台を、映画でスピードアップして、次から次へと笑わせるようだ。ラルフ フィネスのソフトで誠実そのもの、繊細な人柄が、おおまじめにホテルサービスする姿が、とてもおかしい。ホテルマン達はみんな忙しいので、早口でしゃべる。ゼロはとりわけ早口だが、同じ口調でラルフ フィネスが早口ことばでしゃべると、言葉が上滑りしていて、笑える。それらの言葉がウィットとユーモアに富んでいて、皮肉もきつい。イギリスの上質の笑い。本格的なシェイクスピア舞台俳優ラルフ フィネスにしか出せない質の高い笑いだ。
刑務所の脱走なども、現実離れしていて、無声映画時代のチャップリンを見ているようだ。雪のアルプスをソリで脱出するシーンなど、オリンピックのジャンプ台からスレーダーから山スキー競技まで、敵に追いつ追われつ全部こなすところなど、笑いが止まらない。
山の頂上に建つピンク色の瀟洒なホテルや、ホテルの中の装飾、登場人物たちの服装など、現実離れした映画監督ウェス アンダーソンの独得の美意識が見受けられる。この監督の前作「ムーンライトキングダム」(2012年)を見て、彼の独得の映画のセンスに興味がわいた。この映画も、非現実的な世界の羅列で、絵画のように、見て楽しむ映画だった。20メートルくらいの高い木のってっぺんに、ボーイスカウトのテントがあったり、教会の尖塔の穂先で、取っ組み合いをしたりしていた。彼の映画を好きな人と嫌いな人とが、はっきりと分かれるだろう。嫌いな人にとっては この映画、さっぱりわからない。絵画でいうと精密画や印象派の絵やデッサンを違って、いわば抽象画だ。何を言おうとしているのかは、描いた本人にしかわからない。見た人はそれぞれ画を自分にひきつけて観て自分なりの解釈をするだけだ。そういう映画もあって良い。
出演者がみな有名な役者ばかりで、一人ひとりが端役でなくて主役級の役者ばかりが、この映画のちょい役で出演している。とても贅沢な映画だ。映画のプロばかりで ウェス アンダーソンと、ちょっと遊んでみました、という感じの映画。しかしこの映画の成功は、1にも2にも、主役をラルフ フェネスにしたことで以っている。彼のソフトで紳士的な口調、声の柔らかさ。デリケートで神経の行き届いた表現と物腰。怯えた少年のような青い目。
「シンドラーのリスト」(1993年)で、冷酷無比なドイツ軍将校を演じて、注目されるようになった。自分の一存で人を死に追いやったり、一度だけチャンスを与えて再び酷い死に目にあわせたりして楽しむヒットラーの盲信者の狂気を見事に演じて、アカデミー助演男優賞、ゴールデングローブ賞にノミネートされた。
ピーター オトウールの演じた「将軍たちの夜」という映画があった。戦時下のナチズムの嵐の中で、身の毛がよだつような、、人がどこまで人に対して残酷になれるかテストしているような、、、絶対狂っていなければできないようなことを平気でやるサデイストを、ピーター オトウールが、当たり前のような顔で演じていた。彼がお茶を飲んだり、街を歩いたりするシーンごとにあぶなっかしい狂気が潜んでいて、いつどこで爆発するかわからない、不安に満ちた映画だった。そのときのピーター オトウールの「あぶなっかしさ」は、ラルフ フィネスの物腰にも共通する。現に、ラルフ フィネスが、王立演劇学校を卒業して役者になって初めて踏んだ舞台が、「アラビアのロレンス」のロレンス役だった。ロレンスとピーター オトウールと、ラルフ フィネスの3人には、共通する「繊細と狂気」が潜んででいるのではないだろうか。そんな役者が、この映画では喜劇を演じていて、とても笑わせてくれた。
一枚の抽象画をみるような、愉快な舞台を観ているような、楽しくて、不思議なテイストの映画だ。
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