グランド・ブダペスト・ホテル : インタビュー
レイフ・ファインズ、インテリジェンスと色気をにじませた伝説のコンシェルジュ役を語る
ウェス・アンダーソンの8本目の長編映画「グランド・ブダペスト・ホテル」に主演したレイフ・ファインズ。本作で初めてアンダーソンと顔を合わせた彼は、シェイクスピアの芝居がよく似合うシリアスなイメージが強いだけに、一見意外なキャスティングのように思える。だが映画を見ると、監督が「彼以外に考えられなかった」と語るのが理解できるハマりようだ。ファインズが演じるのは、熟年マダムから熱い視線を一身に浴びる、名だたる高級ホテルの気品あふれるコンシェルジュ、グスタヴ。さすがは名優だけに、コミカルな演技のなかに、インテリジェンスと色気をにじませ、その裏に潜む孤独をも表現しつつ、見る者をファンタジーの世界に誘う。(取材・文/佐藤久理子)
監督とのそもそもの出会いについて尋ねると、ファインズはこう語った。「最初に脚本が送られてきて、「どの役をやりたいかぜひ知らせて欲しい」と言われた。それでじっくり読ませてもらったんだけど、正直すごく奇妙な物語だったから(笑)、とにかく一度会って話がしたいと伝えたんだ。でもそれから2カ月ぐらい連絡が途絶えてしまって。たぶんバジェットの問題とかいろいろあったのだと思うけれど、そんなわけで始まりはちょっと曖昧な感じだった。でもその後しばらくして突然、グスタヴを演じて欲しいと言われた。もちろん主役だから僕も望むところだった(笑)。それからは早かったよ」
じつは監督自身の友人をモデルにしているというだけに、アンダーソンはグスタヴというキャラクターに確固としたアイディアを持っていたとか。それだけに役作りの過程も特殊だったようだ。
「グスタヴはとても教養があって雄弁で文学的な言葉を話し、女性にモテると言われた(笑)。しかもウェスはアニメーションにした完璧なストーリーボードを作っていて、自分で全部のキャラクターに声までつけていた! だから最初はちょっと面食らったよ。でもなるべくそれを参考にしないようにして(笑)、自由にイメージを膨らませた。それをウェスと相談しながら修正していった感じかな。彼はすべてにとても緻密な一方で、俳優が役を膨らませるのを応援してくれる。俳優の貢献が必要だと彼自身も思っている。そこから生まれたものなかから、彼のイメージに合うものを選択していく。僕がグスタヴという人物についてひかれるのは、その重層的な性格だ。上辺はとても社交的で人当たりがいい。でもその奥には孤独を抱えている。同時に、正しいことをするべきだという信念があって、彼が目をかけているベルボーイのゼロに父親のように接し、その窮地を救う。典型的ヒーローではないけれど、ある種のヒロイズムがある」
自身監督としても経験を積んでいるファインズは、当初アンダーソン流のユニークな撮影に驚いたという。
「彼は多くのテイクを撮るけれど、カットするのも嫌いでね(笑)。ずっとカメラを回したまま何度も撮影し続けることもあった。同業者からみると、ずいぶんぜいたくだなと思ったよ(笑)。そんなわけでこちらは常に集中していることが必要とされる。一日の終わりにはかなり疲労困憊するけれど、そこにはいつも新しい発見がある。彼はそうやって自分の欲しいものを表現していく人なんだ。一旦撮影が終わってしまえば現場はつねにリラックスして楽しい雰囲気だった。僕らはみんなトレーラーなどを持たずにホテルに滞在していたから、一緒に食事に行ったり、まるで巡業中の芝居の一座のような温かい雰囲気で、新参者にとっても自然にとけ込むことができたよ」
最後に、グスタヴがいつも身につけているとされる香水ル・パナシェはどんな香りがすると思うか、と尋ねると、こんなウィットに富んだ応えが返ってきた。「ロシア風な感じかな。ちょっとスパイスの香りが混じり、ときとして珍しい動物の性感帯から発せられる匂いがする(笑)。この匂いがたまらないほど誘惑的なんだ(笑)」