「朽ちていく」ローマ環状線、めぐりゆく人生たち 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
朽ちていく
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ローマ環状線の周りに住む人々のドキュメンタリー。
様々な人が出てくる。裕福でもなく若くもない人々。
子守唄を歌う男娼。
自分の事をカビ臭いと言う老人。
錆びれゆく館に住む没落貴族。
中でも植物学者のおじいさんがイイ。
木の中を食い尽くす虫の研究をしている。
まるで人のような行動をとる虫。
食い尽くされて枯れゆく木。
皆どこか朽ちていく匂いがする。
それを、優しくもなく冷たくもなくニュートラルな視点で撮っている。
なぜか、そこはかとなくユーモラスだ。朽ちていっているのに、淡々とした余裕すら漂う。
人々の断片は、かつて栄華を誇ったツヤを残しつつも、ゆっくりと衰えていくローマという都市そのものにも見えてくる。
—
救急隊員をしながら年老いた母親の世話をする人が出てくる。
その人は母親の皺くちゃの手を見ながら「美しい手だ」と言う。
おそらく、彼にとっては、本当に美しいのだ。愛おしいのだ。
それが老いて朽ちていても。
そこにある限り。
—
人と都市は、静かに朽ちていく。
それでも、今を生きている。それで充分じゃないか。
今ここに存在している。それが貴重なことなんじゃないか。
人々の断片、「今」が積み重なって、ローマの果てしなく長い歴史(栄えて朽ちてを繰返す)の一部となっていく。
遠い時の流れを見渡す力強い映画だったと思う。
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