劇場公開日 2015年3月7日

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ソロモンの偽証 前篇・事件 : インタビュー

2015年2月23日更新
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1万人から選ばれた藤野涼子の汚れなき眼差し、無限大の可能性を“目撃した”佐々木蔵之介

ベストセラー作家・宮部みゆき氏が構想15年、執筆に9年を費やし、作家生活25年の集大成として発表した「ソロモンの偽証」が2部作で映画化されると発表された際、誰が監督を務めるのか、そして主人公の藤野涼子は誰が演じるのかに大きな注目が集まった。配給の松竹は、メガホンをとることになった成島出監督のもと、前代未聞の全国オーディションを敢行。過酷な選考は四次にまでおよび、エントリーした約1万人の候補者は、最終的に33人に厳選された。1年がかりのオーディションで主演に大抜てきされたのが、役名でデビューすることになった藤野涼子だ。父親役の演技派・佐々木蔵之介とともに話を聞いた。(取材・文・写真/編集部)

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目の前に現れた劇中衣装の制服に身を包む藤野は、瞬きを忘れるほど筆者を凝視し、どこまでもまっすぐで汚れを知らない瞳から注がれる眼差しは、大人をたじろがせる力強さを持っていた。撮影を終え、公開を待つばかりとなったわけだが、新人の藤野にとっては取材を受けること自体が初めての経験ゆえ、緊張の面持ちは隠し切れない。それでも、現在の心境について聞くと熟考の末、淀みなく答え始めた。

「『ソロモンの偽証』に出ていなかったら、子どものまま、相手がどう思っているかなど何も考えず、わーわー言っている女の子になっていたと思うんです。この映画に出演したことで、すべてが変わりました。高校受験が控えている(取材当時)ということもありますが、学ぶことの大切さが身に染みました。たくさん勉強をして、早く大人になりたい。そして、いろんな考え方を持ちたいって思っているんです」。

藤野は、城東第三中学校2年A組のクラス委員を務める優等生で、終業式に向かう道中、雪の積もった校庭でクラスメートの遺体を発見するという役どころだ。この少年の死の真相をめぐり、目撃者を名乗る匿名の告発状、マスコミの過剰報道、教師たちの保身などを目の当たりにしたことから、大人たちに見切りをつけ、隠された真実を暴くために学校内裁判を開廷する。

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一方の佐々木は、涼子の父親で警察官の藤野剛に扮している。母親・邦子役の夏川結衣とともに、藤野の成長を見守ってきた。初顔合わせは堅苦しいものではなかったといい「僕、夏川さん、涼子、下の子2人の5人で『弁当でも食べましょうか』というところから始まった」そうで、“両親”の配慮が感じられる。成島組に参加するのは初となったが、「『お父さんは新聞社に勤めていて、お母さんと恋に落ちてあなたが生まれて…』みたいな剛の人生表をいただいたんです。そこからですよ。実際のロケ場所の藤野家に行って、家族どんな風に寝ているのか、布団の並びはどうなっているか、食卓ではどの席に座っているのかといった打ち合わせが始まったんです。『こういうところからやるのか! 成島組はすごい』と思いましたね。作品づくりとして、非常に贅沢でしたね」と振り返る。

また、成島監督に「映画女優の顔」と言わしめた“原石”に対して、先輩としてのいたわりとともに、その成長ぶりに驚きを隠せずにいる。「1万人の中から選ばれた理由というのはもちろんあったと思うんです。ただ、現場での彼女は、やるべきことをただやっていただけだと思います。逃げることもできませんしね。僕や夏川さん、小日向さんらと芝居をしなければならないし、生徒たちとの間でも切磋琢磨することもあったはず。監督は、技術や表現力を求めず、藤野涼子として生きることだけを求めていた」。だからこそ、佐々木が現場で藤野にアドバイスすることはなかったそうで、「涼子も求めていなかったはずなんです。彼女が涼子の気持ちになることを待ち続けることが映画の成功につながると、みんなの間では意思統一されていました」と語った。

そして、撮影中にめきめきと変貌を遂げていく藤野の姿に、目を見張るものがあったと明かす。「役を生きて、役を通して成長していくのを目の当たりにして、最後の裁判のシーンを見たときに『この子はこんなことになったか』と驚かされました。藤野涼子がクリスマスの朝に遺体を発見してから裁判するまでと、僕らと一緒に弁当を食べて撮影するまでという過程を、シンクロしながら挑み続けているのを間近で見て、震える思いでしたね」。

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佐々木のあふれ出る“親心”に聞き入り、藤野は現場での日々に思いをはせる。成島監督から受けた演出で最も強く心に残っているのは、「涼子を生きていくなかで大切なのは、シーンの前後をとらえて生きていくことが大切」だという。「その時々の心情も大切ですが、もしかしたら色々あって、家に帰ってお風呂に入りながら泣いたかもしれない。とにかく感じなさい、とご指導いただきました。私は役をもらうことも初めてなので、監督のつけてくれた足跡をたどるだけ。たどれなければ監督の指導が入って、再び道を進む。本当に、ただ純粋にそこにいた…ということですね」。

懸命に言葉を選びながら話す藤野を見て、佐々木は「僕が14歳、中2のときなんて、学校と家庭がすべてで、他に逃げ場なんてありませんでしたね。そこしかないんですよね」と同調する。さらに、「今だったら社会に出て、自分なりの見方とか取捨選択しながらできるけど、彼女にはすべてが事件であり、すべてが突き刺さってくる。それを思うと『涼子、そんなこと、おまえが考えることではないよ、背負わなくていいんだよ』という心境になりましたね。僕らは芝居をある程度やってきましたけど、彼女はそういった技術を持たず、まるまる藤野涼子として生きてきたわけで、よく泣いていたなあ。『そんなに涙出るか?』ってくらいでしたね。本当にすべてを作品に捧げていましたね」と話し、藤野を見つめながらほほ笑んだ。

藤野にとっては、佐々木、夏川、小日向、黒木華松重豊ら経験豊富なキャストはもちろん、板垣瑞生石井杏奈清水尋也富田望生前田航基ら同世代の面々とともに過ごしたことは、大きな財産となるはずだ。今後については、「受験もあるので勉強に集中したいんです。これからのことは決めていません」ときっぱり。横で苦笑いする佐々木が、「合否が出て、それから映画が公開したらいろいろと世界が動きますから(笑)。とりあえず、今は勉強ということでよろしくお願いします」とフォローに入る姿からは、無限大の可能性を秘めた藤野に寄せる大きな期待と愛情が感じられた。

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