「日本のSFアニメの、知られざる良作」楽園追放 Expelled from Paradise かせさんさんの映画レビュー(感想・評価)
日本のSFアニメの、知られざる良作
監督水島精二、脚本虚淵玄。
【ストーリー】
近未来、人類は軌道上の電脳世界ディーヴァで電脳人格となって過ごす者と、地上で少なくなった資源を漁りながら生きる者に二極化していた。
ディーヴァ保安局の凄腕エージェント・アンジェラは、度重なる「フロンティアセッター」と名乗るハッカーの侵入を阻止すべく、地上への降下任務にかり出される。
保安局エージェントはそれぞれ地上で現地バックアップ要員と合流し、独立して動くシステムをとっていた。
上昇志向の強いアンジェラは、他のエージェントを出しぬくためにミッション用のマテリアルボディの育成を、任務達成ギリギリのミドルティーンの段階で止めて誰よりも早く地上へ向かう。
ところが地上で合流した現地オブザーバー・ディンゴは、バギーを走らせて大量の危険生物サンドワームに追われていた。
アンジェラが機動外骨格スーツ"アーハン"でサンドワームを殲滅すると、ディンゴは大量のその死骸を、地元の精肉屋連中に売りさばく。
あげくアーハンのアクセス機器を破壊して
「敵さんは、堅牢なディーヴァへ繰り返し侵入するような凄腕だろう。こんなもん持ってたら探してますよと宣伝して歩くようなもんだ」
と言い放ち、こちらもジャンク屋に叩き売ってしまう。
ディーヴァとアクセスできず、最新鋭のバックアップを断ち切られたアンジェラだが、ディンゴの調査に連れられ南米各地をまわってフロンティアセッターを探すうち、「時代おくれ」と蔑んでいた地上に生きる彼らにも、生きるために重んじるべき哲学があることを知る。
荒廃したポストアポカリプス未来と電脳世界とセンスフルなメカ類、出自の異なる美少女とヒゲ兄貴のバディ物。
おいしそうな要素てんこ盛りのこの作品ですが、設定の表面をなぞってそれだけではない、虚淵玄脚本らしい、必要なツボをきちんと押さえたエンタメで、見終わって、ああこれいい拾い物したなあと。
ディンゴ役の三木眞一郎さん唄う主題歌「EONIAN」がまたいいですね、古いロックのバラードで。
音楽とその使い方も全体優れていて、視聴後すぐにサントラ買って、しばらくヘビロテにしてました。
3D造形を見てもらえば分かるとおり低予算映画ですので、パンフレットも発行部数が少なかったのか、近辺の映画館どこにいっても売り切れで、その後書店に出回るも売り切れてて買えず,いまだに手に入れてません。
悔しいっビクンビクン!
とりあえずAmazonポチりました。
さてシナリオの虚淵玄ですが、原作のニトロプラス代表(つまりほぼ原作者)。
『Phantom -PHANTOM OF INFERNO-』や『吸血殲鬼ヴェドゴニア』といったアダルトゲームのシナリオでデビュー、Phantomはアニメ化もされています。
その後同人界隈での二次創作や、SF武侠モノの『鬼哭街』、奈須きのこ原案の『Fate/Zero』、『ブラックラグーン』などの小説も書いてまして、ストーリーと戦闘描写は凡百のアクション小説家以上の力量の持ち主です。
アダルト出身らしくエログロが目立ち、出てくる麗しい女性キャラクターを不幸にたたき落としては非業の最期を遂げさせるため、海外では「ウロブッチャード(虚淵による女性虐殺)」という造語が作られたことでも話題になりました。
そう、『まどマギ』です。
とはいえそうでない作品も多く執筆しており、作劇の観点から言うと、職人的技量も高く、特に伏線の張り方とその回収が非常に巧い、品質保証請負人のアベレージヒッターです。
ネタバレは避けますが、この作品に関しては「そうでない方」ですのでご安心ください。
アンジェラ、すごくがんばり屋さんでかわいいですよ。
SF的には、特にデジタル空間や電脳人格の扱いにはツッコミどころ満載なんですが、筋立てが面白いからそこは棚上げで楽しんでください。
ドラマとしての面白さを優先するなら、あの部分をリアルに映像化なんて現状では無理なんです。
だってまだ人類誰も電脳空間にジャックインしてないので、経験を共有できないし。
当作は世界観も魅力たっぷりで、サイドストーリーなんかもハヤカワ書房やガガガ文庫から細々書き継がれており、この一月ついに続編『楽園追放 心のレゾナンス』の制作が発表されました。
パンフレットも買ってないくせにえらそうに言いますが、いやーファンやっててよかった(テヘペロ笑)。