「戦争が心の中にもたらすもの」悪童日記 よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
戦争が心の中にもたらすもの
主人公が双子でなければならない理由がずっと気にかかった。
戦火が主人公たちの住む大きな町にも近づいてきて、「魔女」と周囲から蔑まされている祖母の家に疎開する。この時、勉強だけはやめてはいけないと、母親に持たされた聖書を教科書代わりに、過酷な環境の中彼らは勉強を続ける。
しかし、大人の世界では、聖書の教えとは矛盾する戦争や殺人が当たり前のように起きている。彼らの勉強は人間としてあるべき姿と現実との矛盾を学ぶことだった。
彼らが出会う周囲の人々は皆様々な顔を見せる。はじめは鬼のような仕打ちをしてきた祖母も、懸命に働くことで自分たちを認めてくれ、庇護してくれる存在となる。自分たちを愛することのみが人生だと言っていた母親は、再び二人の前に現れた時には父親の異なる妹を生んでいた。彼らは迎えに来た彼女を拒絶する。神の言葉を人々に伝えるはずの司祭の秘密。自分たちを入浴させてくれた若く美しい司祭館の女は人種差別主義者だった。そして、捕虜生活を終えた父親はすでに立派な軍人ではなく、スパイ容疑をかけられて出国を目論む逃亡者に過ぎない。一番ひどいのは、目も見えず口も利けないという隣家の母親である。娘が死んだときにその家を訪れると、彼女は目も見えるし話もできるではないか。
そうした人々とは異なり、隣家の娘や靴屋のユダヤ人のように無償の愛を示す人々も出てくるが、そうした人々に限って酷いを死を与えられる。二人を取り巻く現実を見るにつけ、もはやこの世には神の目など届いてはいないかのようだ。
両親すら信じ愛する存在ではなくなった彼らにとって、人間とはどんな存在になっただろう。それは、愛に満ち溢れて、心を開くことの出来る存在ではない。このことは、自分と何から何まで同じはずの双子の相手にも当てはまるという残酷な結論達したのであろう。そのことが事実化する前に、最後の訓練「別れ」を決行する二人なのだった。