「もう一人の悪魔」パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
もう一人の悪魔
最初に言っておくが、パガニーニの楽曲もデイヴィッド・ギャレットの演奏もまともに聴いたことがない。つい予告篇につられて観たのだ。
ヴァイオリンとは、こんなにも多様な音色を出すものなのかと感心する。両手を使った素早いピチカートも、よく同じ弦を弾かないものだ。クラシックの領域を超えている。これはもはやロックだ。
天才的な演奏はもちろんだが、演技もできなくてはならない。デイヴィッド・ギャレット、この人なくして完成は不可能な作品だ。
パガニーニの生涯は1782‐1840年だという。
おおよそ産業革命が起こった時期と重なる。映画でも、港には多くの帆船が係留するが、蒸気機関を使った外輪船も出てくる。
女性の権利の擁護を訴えたいわゆるフェミニズムの活動も盛んな時代で、女性活動家の一行や、男に混じってシルクハットを被った野心的な女性記者も登場する。
パガニーニが初めて純粋な思いを抱くシャーロット。若い女の身ながら遠く海を渡って独り立ちしていくお膳立てができあがった時代背景を重ねて観ると、なかなかに興味深い設定を凝らしてある。
シャーロットにふんするアンドレア・デックは美しい女優さんだ。
だが、なんといってもパガニーニとマネージメント契約を結ぶウルバーニの存在が大きい。
パガニーニが音楽だけに没頭できるよう計らうだけでなく、ほどよく遊びを大目に見、あるときは父親のように人生を説く。だが、ひとたびパガニーニとの関係に水を差す事態が起これば悪魔のように立ちはだかる。
人間離れした演奏テクニックを悪魔と契約して手に入れたとまでいわれるパガニーニ。音楽以外はまるで駄目な彼が、世間から身を守るために魂を売り渡す契約をしたウルバーニはもう一人の悪魔といえる。
時折、この世のものではないと思わせるジャレッド・ハリスの演技が素晴らしい。
p.s. 好きな映画音楽のひとつ「個人教授」(68) のメイン・テーマ(フランシス・レイ作曲)と、パガニーニがシャーロットに歌わせるアリア「あなたを想っているわ、愛しい人よ」(ヴァイオリン協奏曲第4番~第2楽章)が似ていることに気付く。