ファーナス 訣別の朝のレビュー・感想・評価
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対の連なり・光と影が、かけがえのない物語を紡ぎ出す
大切なもの全てを奪われながらも、筋を貫く男の話。
文字にすると、身も蓋もない。しかし、これが実に至福の2時間弱。とにかく、映像が深い。そして、悲しいほどに美しい。
この映画を面白くしているのは、似て非なる、AとBの対比だ。堅実な兄と地に足がつかない弟、看る者と看られる者、鉄鋼所での仕事と刑務所での作業、収監された兄と戦地へ赴く弟、愛を乞う者と拒む者…。様々なAとBが重なり、すれ違い、入れ替わり、物語を紡いでいく。刑務所で語らう兄弟は、どちらが収監されたのかわからないほどに囚われている。愛を乞う者も拒む者は、それぞれに代え難い悲しみに沈む。また、繰り返し描かれる、車の運転席と助手席という横並びの関係も印象的だ。そして、血みどろの拳闘と清廉な鹿狩りの並行展開が、物語を第一の高みへグイグイと導いていく。
後半は、フレームの連なり、光と影の対比が忘れ難い。小さな窓から覗きこむようにカメラが展開し、遠景から物語を捉える。あたかも、安易な共感や同情を拒むように。全てを飲み込むような重い夜が、じわじわと明けていく。穏やかな光に包まれた朝に、物語は第二の高みに至る。
そして、再び闇。漆黒の中から、うつむいた彼の姿が、輪郭のみ浮かび上がる。抑えた感情があふれ出すような、静かな凄み。何も見えないはずの暗闇を、ひたすら凝視した。これほどに納得のいくラストシーンは、なかなかお目にかかれない。
今年の映画…を思うこの時期、幸運にも忘れ難い一本に出会えた。
ザ・変態祭り、にならなかったから、ではない。
この役者陣を見るとわかるが、まあ、揃いも揃って個性派、というかみんなかつて変態を演じている。
一切の情報を仕入れず、鑑賞に臨んでるんだから、変態祭りをこの面子では期待してしまうのは仕方がない。
オープニング早々、ハレルソンのとんでもないくそ野郎ぶりを見せつけられ、こりゃ、すげえ映画になるな、といきなり心、鷲掴みされる。
なんてったって、ベール、アフレック、デフォー、ウィテカー、変態カルテットが控えているのである。期待値はそりゃあ、MAX。
ベール演じる主人公は、これが、まあ、家族思いのよき兄貴なのだ。ある事故を境にこいつの人生が変動する。
まあ、主人公だし、こいつに変態は求めてはだめなんだろう、と次にアフレックの登場を待つ。
アフレック演じる弟は待ってましたの、バカ。こいつが期待通りに、悪いやつではないんだけど、バカ。
こないだの「そこのみにて光輝く」のバカとまったくおんなじ思考回路。模範的なバカ登場で、こいつが主人公を振り回す。
こいつを飼っているのが、高橋和也、じゃなくって、デフォー。
ところが、このデフォー、町の有力者で、アフレックを飼い殺しをしているのだが、自分以上の変態を恐れているのである。
そう、それこそがハレルソン。
全世界注目の変態役者両雄の激突が始まるのである。
とは、実はならないのである。
もう、この時点でこの映画の見所は皆無。
オープニング5分で燃え上がった熱気は、一気に冷めていくばかりなのである。開始5分でOut of the Furnace、とある意味原題を地で行ってしまっている。
この後の主人公の行動は、ほとんどめちゃくちゃ。そもそも、この主人公の背景が実は結構描かれていない。
敵のアジトになぜか乗り込むし、なぜか、おじさん同行だし、最後の対決の舞台も、関係ない人物が巻き添えになってるし、とまあ、そういう意味では支離滅裂な変態っぷりを見せてくれはする。
この映画、「ディア・ハンター」に似ているとあちこちで聞くが、変態役者が多数出ている、という点では似ているかもしれない。
ラストはパールジャムの「リリース」。
ラストの主人公の行動ははっきり言って説得力ゼロ。うーん、間違いなく身柄はその真逆なんだが、なぜかヒーロー然としているのである。
おっとウィテカー。「黒い天使で、悪魔」と呼ばれた男(しんさん調べ)
ウィテカーはここで、バシっと決めてこそ、なんだが、あれー、そうなんですか。そういや「黒い端役」というのもあったな。(しんざん調べ)
やばいな、これ。俺の今年のワーストかも。それは決して、ザ・変態祭り、にならなかったから、ではない。
【貧乏白人がもっと貧乏白人と殺し合いを演じる救いの無さ】
兄、ラッセル・ベイズ(クリスチャン・ベール)はペンシルベニア州北ブラドックの製鉄所で働くプア・ホワイト。飲酒運転→死亡事故→刑務所→父との死別と、トントン拍子に転げ落ちていきます。愛していた黒人の彼女はムショに入っていた間に黒人男に奪われ、白人である彼の立ち位置はもはや黒人以下のようです。
弟、ロドニー・ベイズ(ケイシー・アフレック)は繊細な心を持つイラク帰還兵。兄が止めるのも聞かず、彼は自ら暴力の中に身を置き、身を滅ぼしていきます。悲惨な戦争体験によるPTSDを引きずっていることがセリフで説明されますが、もう少し丁寧かつ繊細に描写して欲しいところでした。ただの乱暴者ではなく、もっと彼の内面にスポットを当てた方が、映画の深みが増したのでは。
この二人の兄弟の暮らしぶりには、なんの希望も見いだせません。中国製の安い鉄鋼のせいでもうすぐ製鉄所も閉鎖されちゃうとのことで、なんとも重苦しい閉塞感が漂います。おそらく現実にこんな貧乏白人はどんどん増え続けているのでしょう。ガソリン車、タトゥー、ケンカ、ギャンブル、アルコール、鹿狩り…。生活全般があまりにも時代遅れ。価値観があまりにも古臭い。過剰な男性性ばかりが目につきます。彼らの貧困は経済ばかりではなく、文化的な貧困も凄まじいものがあります。時代にあった新しい価値、人に喜ばれる価値を生み出すことのできない彼らには何ならできるのか。肉体労働と兵役以外に見当たりません。彼らの柔軟性のない生き方はディア・ハンターの頃から全く変化していないようです。
本作の敵役、ハーラン・デグロート(ウディ・ハレルソン)はヒルビリーのボスです。ヒルビリーとは、アパラチア山脈一帯の山地に住み着いたスコッチ・アイリッシュ系のプア・ホワイトたちのことです。“掟”が支配する前近代的かつ閉鎖的なコミュニティを形成しており、犯罪や麻薬取引に関わる者もいるらしいですが、警察や国家権力の介入もなかなかままならない地域だそうです。ハーランは人を殺すことを全く躊躇しない悪人として描写されます。彼の行動原理は利害や損得勘定よりも暴力衝動に支配されている“狂犬”あるいは“野獣”です。鹿の代わりに狩られてしまいます。
プア・ホワイトの労働者がプア・ホワイトのヒルビリーと殺し合いを演じる構図。それを富裕層のエリートたちが上から眺めて笑っているアメリカ。なんとも救いのない気分にさせられる映画でした。
現実世界ではそんなプア・ホワイトたちが最後の望みを託すトランプ&バンス。特にバンスはヒルビリー出身で初めて副大統領候補まで上り詰めた苦労人ということです。
「ヒルビリー・カルチャーに潜む最大の問題は、自分の不幸の原因は、全て社会と政府の責任だと考えていること」「テレビニュースも、政治家も信じない。よりよい生活に入るための門戸である大学は、ヒルビリーを排除する方法を講じていると信じている。そして、ほとんどのヒルビリーが、自分の人生は自分ではコントロールできないとし、自分が置かれている惨めな状況は自分以外の全ての人間のせいだと非難する」(J.D. バンス著「ヒルビリー哀歌」)
アメリカのプア・ホワイトたちのおかれた救いのない厳しい現実。この映画は観る者にそれを垣間見せてくれます。プア・ホワイトたちの最後の望みが絶たれたとき、おそらくまた血の惨劇が繰り返されることになるのでしょう。
溶鉱炉のような煮詰まった日常
映画の予告編を観ていて、急に興味をそそられる作品、というのがある。まぁ、結構ある。月に1回くらい「観たい映画リスト」に横入りしてくる。
「ファーナス/訣別の朝」もそんな作品の1つ。
豪華なキャストと、重厚そうな雰囲気に惹かれて観賞。
とにかく、主演のクリスチャン・ベイルが良い。過去、何度もクリスチャン・ベイルには泣かされて来たが、今作も例外ではなかった…。
何だかねぇ、彼の泣いている姿を観ると急に彼の感情が流れ込んできちゃったような感じがする。
悲しいとか、苦しいとかを感じる前に、涙を抑えられなくて「あれっ、泣いてる!」と思ってから「ああ、すごく切ないよ、寂しくて苦しくて耐えきれないよ!」という感情が追いつく、みたいな感覚になる。
不思議だけれど、大体いつもそうだから凄い。
弟を演じているケイシー・アフレックも良かった、ように思う。ケイシーから溢れ出る「弟感」はなんなんだろうね?実生活でも弟だから、なんだろうけど見事な弟ぶり。
逆に兄貴キャラとか観てみたい気もするけど、私の中で完全に「弟!コイツは絶対弟!」っていう意識が固まっちゃってるから、違和感バリバリでダメかもしれん。
ストーリー的には、予想通り。重苦しい雰囲気漂う男臭いヒューマンドラマのサスペンス仕立てで、大変美味しゅうございました。
余談だが、製鉄所のショットの印象的な使い方や鹿狩りのシーン、出征帰りの弟が「ファイト・クラブ」のような場所で刹那的なスリルに興じるところなど、「ディア・ハンター」みたいだなと思ってた。
旦那にも「ディア・ハンター意識してるのかな?」と言われ、私も私も!と同意し、レビューを見に来たら少なくない人数の人が「ディア・ハンター」の話をしていた。
まぁ、やっぱりそう思うよね!
これは一体、、
何を訴えたいのか、よくわからなかった。
兄弟愛、閉じた社会、悲哀、鬱屈、アウトロー?それとも鉄骨の街?
全てとしても、何が伝えたかったのか不明な映画。最後まで探したが?だった。よもや、現実世界の話でもあるまい。まさかそこ?
ラストベルトの風景に、絶妙にマッチ
ラストベルトで生きる兄弟愛と悲哀、復讐を描いた物語。
極めて地味ですが、私好みの秀作でした。
飲酒運転で収監され、恋人を失った兄。イラクでPTSDを患った弟。二人の哀愁を、ラストベルトの寂れた街並みが盛り上げます。
弟を殺された後の復讐譚も、メインの流れを崩さずリアルにしっかりと描きます。麻薬巣窟でのやり取りなど、派手さを一切に排除しているからこそ生まれる緊迫感がありました。
極めて地味なので、評点自体は4にしましたが、個人的にはもう少し高く評価したい作品でした。
製鉄所おじさん頑張るの巻
製鉄所おじさんが、弟のために復讐する話。
とにかく、主人公がイケメンすぎてそれだけで絵になる。キャストや、演技は申し分ない。設定も
OKだ。山の中は無法地帯というのもワクワクさせる。雰囲気もOK
しかし、すごく長い。いつ復讐はじまるの?というレベル。
結局2時間あるうちの20分程であっさり終わる。
しかも芋芋製鉄所おじさんがハンターライフル一丁で立ち向かい、無関係の人を巻き込んでゆっくりハンティング。いやいや、その近距離でなぜ走って追いかけとるん。。
うーん、なんかもっといい感じにできたんじゃないのかな。。
何もかも失った製鉄所おじさんのあまり共感できないハンティングでした。
あの距離だと、スコープの倍率高すぎるんじゃないかな
やるせない
もしも自分の人生から次々と大切なものが無くなってしまったら
少しばかりの自信や恋人、そして肉親
そんな事が続いたら自分はどうなってしまうのだろう
頭ではわかる、決してしてはいけない事
自分の子供がいなくなってしまったら
考えたくもない、腹わたがえぐられるような思い
どうしたらいいのだ
どう処理したら生きていけるのか
神はなぜ試練を与えるのか
答えはどこにでもあってどこにも無い
そんな思いでいっぱいだ
いろんな映画があるな
Cベールの無駄遣い
すごく盛り上がる敵討ちの話かと思ったら、そうでも無かった。
序盤は兄弟愛+家族愛がふんだんに盛り込まれていて、
「あー、こんな兄弟いいなー」「父親に愛してるとか言えないなー」とか、
ラッセル(クリスチャンベール)一家に肩入れしていった。
貸金のペティはウィレムデフォーで、この人の悪役も鉄板だなーとか、
いい要素が多かった。
中盤から、ペティに善人要素が混じり、話が盛り下がりだす。
冒頭から出てきてたデグロートという巨悪(とも言い辛い)が動き出し、
そもそもこの巨悪を動かしたのはラッセルの弟ロドニーだという、
自業自得感も重なり、
デグロートのアジトを突き止める処は良かったけど、
デグロートを誘き寄せる手段が、あれでよく来たな!、という手だし、
デグロートを追いかけるラッセルはライフルだし、
何だかテキトー過ぎませんか?。
ラストね、あの勿体ぶり方もあまり好きではないし、
どうせラッセルは全てを失うのだから、相撃ちでもよかったんじゃないか、とか、
先にウェズリーが撃つとか、
余計なことを考えさせてくれる話でした。
【アメリカのペンシルベニア州の田舎町を舞台にした、渋すぎるクライムムービー。灰色のトーンが印象的な作品。】
作品全体を覆う、灰色感溢れる閉塞感が凄い。
衰退著しいペンシルベニア州の且つては炭鉱で栄えた田舎町を舞台に、クリスチャン・ベール主演、ケイシー・アフレックが彼の弟を演じるクライムムービー。
レオナルド・ディカプリオ、リドリー・スコット製作
「クレイジー・ハート」のスコット・クーパー監督がメガホンをとったリアリティ感溢れるクライムドラマ。
近年、シネアート系でも殆ど観ないような激シブの映画。(良く、シネコンでかけてくれたなあ・・。)
とても良い。(個人的感想である。)
<2014年10月1日 シネプレックス岡崎(ユネイテッドシネマ岡崎)にて鑑賞>
ペンシルバニア州のブラドックという鉄鋼業の町。製鉄所で働く寡黙な...
ペンシルバニア州のブラドックという鉄鋼業の町。製鉄所で働く寡黙な男ラッセル(ベイル)は父親と恋人リナ(ゾーイ・サルダナ)のために真っ当な人生を歩んでいた。イラクから帰還した弟ロドニー(アフレック)は借金やギャンブルのために、いつも迷惑をかけていたが、弟思いのラッセルは真面目に生きろとさとすほどだった。が、つい飲酒運転で人身事故を起こしてしまい刑務所に入るラッセル。
数年後に出所したラッセルはリナが警官ウェズリー(フォレスト・ウィテカー)の子を身籠っていたことを知り、人生の一つの目標を失いかけていた。そんな時、地下格闘場で稼ごうとしていたロドニーが借金まみれの元締めジョン・ペティ(ウィレム・デフォー)と共に悪党ハーラン・デグロート(ハレルソン)によって殺されたのだ。州にまたがる山地のためデグロートは警察の手におえない。警察に頼れないと悟ったラッセルは自ら復讐を誓うのだ・・・
ストーリーはすごく単純なのに、静かに重く、感情を押し殺して行動する登場人物。帰還兵のトラウマとか、警察の無力さとか、そんなメッセージがあるかと思えばそうでもない。もっと心理の奥を探ってもいいのではないかと思うほどの作品。一流俳優がいっぱい出てるので演技力だけはあるのだが・・・
やるせなかった
殺伐とした映画が見たいと思って、以前に試写会で見ていたら途中で寝てしまっており、きちんと見返した。全編に遣る瀬無さが漂っており、どん詰まりで殺伐とした雰囲気がすごくよかった。ウディ・ハレルソンのラスボス感が素晴らしかった。あんな山暮らしでなぜ金を持っているのかと思ったらドラッグを自作していた。自宅が凄まじく荒んでいて一歩足を踏み入れたらただでは帰れない感じだった。
それにしてもなぜああいった地下格闘技で八百長する場合「負けろ」と命じるのだろう。「絶対勝て」にすればいいのにといつも思う。
原題はアウト・オブ・ファーナス(溶鉱炉の外)。田舎の狭いコミュニテ...
原題はアウト・オブ・ファーナス(溶鉱炉の外)。田舎の狭いコミュニティに暗い雰囲気がよくでていた。
寂れたファーナス
アメリカ北東部の寂れた溶鉱炉(ファーナス)の町。元受刑者の兄と帰還兵の弟。地元の犯罪組織と関わった弟を救う為、兄が単身戦いに挑む…。
監督に『クレイジー・ハート』のスコット・クーパー、プロデュースにレオナルド・ディカプリオ、リドリー・スコット。
クリスチャン・ベール、ケイシー・アフレック、ウディ・ハレルソン、ウィレム・デフォー、フォレスト・ウィテカー、サム・シェパードら豪華実力派共演。
重厚で骨太で、渋い大人のクライム・ドラマ!
…今一つだった。
いや勿論、弟を救う兄の孤高の姿は胸アツだし、再び犯罪に手を染める性は哀愁漂うし、アンサンブルは極上のもの。
でも何だか、思ってた以上に話が煮えたぎらない。
一級のクライム・ドラマにしたかったのか、外部から閉塞された田舎町の現状を訴える社会派ドラマにしたかったのか。
あらすじ自体はB級チックなサスペンス・アクションで、結構似たような話も多い。
タイトル通り、ファーナスのように硬質ながら、至るところ寂れた作品であった。
始まりは良かったのにな
始まりは良かった。
ダメな弟としっかり者で地味な兄貴。
ここから浮上して行くのかなと思ってたら、
事故を起こし、どうなるんだ?
と言うところまでは凄く惹きつけられたのだけど、そこからの展開は何これ?って感じだった。
わけわからんと言うよりは、シンプル過ぎる展開に彼女を取られたとかのフリが効いてなくてガッカリした。
ウッディハレルソンの最初からヤバイヤツと言うキャラ付けしてるのはとてもワクワクした。
良い俳優ばかりなのに残念だったな…
人生の意味
戦争、低賃金労働、閉鎖された共同体特有の掟、またまだ自分の理想と現実にギャップがある社会の中で、どこに落とし所を見つけ、人生の意味を見出すか、兄の最後の判断は、それまでに彼の冷静な行動を見せているため、その判断の重みが増す。
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