「緊張感あるノワール@濱口竜介、だが。。。」THE DEPTHS Tama walkerさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0緊張感あるノワール@濱口竜介、だが。。。

2024年5月10日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

濱口竜介監督の「初期」の作品の一つ。韓国との合作で、俳優陣も作品内で使われる言語も日、韓、言葉は英語も。一種のノワール。
面白かった。緊張感がずっと続いて、綱渡りの綱からおろして貰えないような感じ。

キム・ミンジュン、カメラマンの仕事も家庭も大成功、しかも友達思いのいい人、を十分説得力をもって体現していた。けど石田演ずるリュウに惹かれるのだけがよくわからず(後述)。村上淳、怒鳴るとか暴れるとかほぼないのに、地獄のように怖い。そして哀しみがある。素晴らしいですね。米村亮太朗はちょっと情けないけどそれなりに根性のある悪いやつで、これも最高。リュウとの愛憎もなんとなく想像できる。

ということで、脚本、演技陣、韓国っぽさがありながらやり過ぎにならない演出、みな良い。しかししかし、この映画を成り立たせる最重要要素がどうにも不安定なのである。この映画が描くのは、リュウ(若い男娼)のもつ渦に引き込まれたり振り回されたりする人々の人間模様である。つまり、関わらないほうが良い相手と分かっていても取り込まれてしまうほどの圧倒的な魅力がリュウにはある、と観客が思えるかどうかにこの映画の命運はかかっているのだが、石田法嗣の演じるリュウは残念ながらそうは見えない。被写体としてペファン(キム・ミンジュン)の作品に出てきても、やはりそうは見えない。

その結果観客は、ペファンやその友人の行動に今一つ納得がいかないまま置いてきぼりにされる。もどかしい感じがのこる。ベタな例しか出てこないけど、『ヴェニスに死す』におけるビヨルン・アンデルセンのようなキャスティングができていたら。

Tama walker