「原作を平板化したエンタメ」寄生獣 dddさんの映画レビュー(感想・評価)
原作を平板化したエンタメ
原作のどこを重視するのかで感想は異なると思いますが。
染谷さん自体は、イメージの合わなさは目をつぶるとして、あの若さの主人公を演じる上で演技は上手い方の俳優だろうとは思う。
ただ実際には、新一の演技は、状況にあった心理とは思えない。まず、思考も身体もまだ「ただの高校生」である新一が田宮良子と初めて対峙する場面について。そもそも、戦闘になる可能性があり、そうなれば困るのは新一も同じであるのに公然と会うだろうか。田宮に里美を一見させるためだけのために??また、対峙することになったのは多くミギーの意思であり新一の本意ではないと思われるが、あのような安い演技はどうだろうか?唯一武器であり盾でもあるミギーを前に出し左半身を引くのではないか。あの演技はひどく拙い怯え方が続き、あれでOKを出す監督はどうかと思う。
また、ミギーと融合後の変化としても、田宮の居る理科室に乗り込んだ際に、あれだけ「横柄な」態度を取るような変化ではないと思うが。パラサイトは、本能的に敵を認識し自身にとって危険だと感じることには長けているはずで、田宮という強敵に対してああした馴れ合いや油断をするのは違うと思う。
ミギーについては、他の方の懐疑的な意見にほぼ同調する。阿部さんの演技にも特に冴えはない。新一がミギーという存在を受け入れてゆく過程の違和感は、この阿部さんとの不自然な掛け合いと無関係ではなく、染谷さんの演技だけの問題ではないだろう。
次に、母子家庭に変更した件。これはキャストや時間・編集の問題などからあり得ることだとは思う。しかし原作では、「お嬢様育ち」ながら自らの身を顧みず子を守る「強さ」を持った母として描かれていたものが、余さんという名優を得て人間味ある「肝っ玉母さん」になっているところは、やや残念である。そうする必要性が果たしてあったのか?
というのも、田宮は最期は新一の母の持つ「母性」に近づこうとしている。家に寄りアルバムを見つめ、最期は母の姿を借りて、最期は身を挺して子を守るのである。
そして、母の死と新一の失われつつある人間性という伏線は、原作で描かれた「母性」が田宮からその死とともに「還される」ことで回収される。この最期の場面でパラサイトである田宮が母性を示すのであるが、田宮は「人間らしく」なれたのではなく、生物的、根源的な「子を守る母性」に近づけたということだと思う。肝っ玉母さんのようなより人間的な像をゴールにするとしたら、いかに田宮といえどパラサイトでは無理がある。些細なようで、自身としてはかなり違和感を覚える設定であった。
またこちらが致命的であるが、宇多を省いたことで、あっさりと新一が母の身体からパラサイトを切り離してしまった。ここで自ら手を下さないことで、結果母の死を受け入れられないままでいたという伏線すらなくなり、これも田宮の死に意味を持たせづらくなってしまってはいまいか(完結編如何であるが)?
新一はこのラストからして、完結編ではリベンジャーとしてで描かれる様子だが、果たしてそうだっただろうか?憎悪に囚われたのではなく、自身の大切な人に危害が及ぶリスクを減らすためにパラサイトを一匹ずつ「間引く」のではなかったか?
そして改めて田宮良子だ。この描き方がまたよろしくない。パラサイト全体としては、異質で平板な感情、非常識で多く迂闊という設定が当然あるだろう。しかし、作中最も知性が高く他と一線を画す田宮が、水族館のような衆人環境でもう二人のパラサイトと引き合わせるような事をする(しかも一人は警官の制服で?)。喫茶店を水族館に変更したのは生態系の縮図としての「画的な」理由であろうが、これには呆れてしまった。そうした理由を、都度「実験」だと説明するが、実験としても場当たり的で低レベル、かつ結果としてリスクが上回ることは田宮であれば行わないだろう。田宮は知性、学習能力が高く、広く先々まで見通す視野を持っていたはずである。結果、田宮の知性は終始損なわれてしまった。
他の方も仰っているように、前編としても尺に余裕があるのだから、しっかり作れば良いのに、ストーリーよりもエンタメとしてのスピード感を優先してしまったのだろう。そう納得せざるを得ない残念さだ。
余談としては、東出さんの演技は言わずもがな非道いものである。棒読みと、パラサイト的な無機質な演技は別物だ。
國村さんは、前半から出過ぎである。尺の取り方意味が分からない。とりあえずあのタイミングでなんの説明もなしに新一(前科もなく、指紋の履歴もないだろう、いち高校生)の家に捜査に来るのは無理がある。
もひとつ余談としては、出来れば以下のキャストを望んでいました。染谷さんは、明らかに島田の方がしっくりくる。
三木は「せっかくイイ男」ではないが。
泉新一 ▶︎本郷奏多
ミギー▶︎山寺宏一
村野里美▶︎石橋杏奈
田村玲子▶︎満島ひかりor香椎由宇
後藤▶︎北村一輝(移動)
三木▶︎ピエール瀧(変更なし)
広川▶︎井浦新
母親▶︎和久井映見
父親▶︎平田満
倉森▶︎佐々木蔵之介
島田秀雄▶︎染谷将太(移動)
A▶︎池内万作(変更なし)
平間▶︎國村隼(変更なし)