「違和感を持たせるべき対象に正しく違和感を付与した作品。」寄生獣 Opportunity Costさんの映画レビュー(感想・評価)
違和感を持たせるべき対象に正しく違和感を付与した作品。
良かった。
山崎貴 監督作品。
過去作品の印象から暗い期待を抱いて映画館に足を運びましたが。
蓋を開けてみると…山崎作品で度々覚える違和感が抑えられ/巧い方向に転がって十分楽しめました。
まず題名。
通称「山崎メソッド」と揶揄される「意味不明な英単語 + 日本語題名」。
「永遠の0」で見直したと思いきや「STAND BY ME ドラえもん」で復活。
「寄生獣」はどうなる、と思っていましたが原作通りの題名。
「humanity 寄生獣」「stranger 寄生獣」等の萎える題名でなくて一安心。
そして話の設定/展開。
原作全64話を前後編 2作に収めるために設定/展開の改編や省略はありますが。
映画オリジナルの余計な人物追加等は無く、印象的な場面は押さつつテンポ良く。
原作を何度も読み返す程の愛好者ではないですが。
かつて原作を読んだ者としては原作の世界観/雰囲気を大きく損なわず「寄生獣、観てるな」感がありました。
それから俳優陣。
特筆すべきは主役の新一を演じる染谷将太。
或る出来事を境に見た目も中身も変化する新一。
虚ろな目から明確な感情を宿した目に。
表情の変化を通して新一の変化を表している点にグッときました。
また実在しないミギー相手の演技を成立させていた点も良かったです。
その他脇を固める俳優陣も堅実。
特に寄生された人間を演じる面々の独特の雰囲気は良い意味で違和感があり好感が持てました。
最後に映像演出。
山崎作品と言えばVFX。
現存しない光景の再現や壮大な戦闘場面の演出にCGを駆使。
確かに邦画の中では目を引く映像ですが。
莫大な資金が投入された海外作品に見慣れた観客にとっては何処か違和感が。
CG部分の違和感が話のノイズになることも度々という印象でした。
本作もCGの品質自体に然程変わりはないのですが。
CGで描かれる主な対象は寄生生物。
CGの違和感が巧い方向に転んだ結果、違和感を持たせるべき対象に正しく違和感が付与されていました。
特筆すべきは捕食場面。
予告編でも流れる印象的な捕食場面は秀逸。
寄生生物の生態が分からない中、僅か数十秒で示される凶悪さ。圧倒的な異物感。
その瞬間の衝撃に思わず息を呑み、あまりの呆気無さに息を吐く。
寄生生物の説明場面として十二分に機能していました。
また食べ残し演出も良かった。
捕食に伴い必ず発生する残骸をキチンと現した点に好感が持てました。
惜しむらくはミギー。
見た目の玩具感/ソフビ感には目を瞑るとして。
他の寄生生物に比べて感情豊か過ぎる気が。
人間とは異なる考え/生態を持つ寄生生物を通して「人間とは」を炙り出す本作の中で。
最も登場場面が多いミギーは言わば寄生生物の代表。
にも関わらず、序盤から新一との交流で感情豊かに動き話す。
阿部サダヲのバタバタした声も相まってマスコット感が強く、その点は残念でした。
違和感を持たせるべき対象に正しく違和感を付与した本作。
登場人物や設定の説明をしつつ、一つの話の起伏を描き、後編への伏線もキチンと残す。
前後編の前編としての役割は果たした作品かと。
後編を楽しむためには、まず本編を。
原作の知識無しでも楽しめる作品だと思います。
オススメです。