劇場公開日 2014年3月22日

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オーバー・ザ・ブルースカイ : 映画評論・批評

2014年3月19日更新

2014年3月22日よりユーロスペースほかにてロードショー

彼らの奏でる音楽が、小さな物語を果てしない広がりに変えていく

ベルギー人が作ったアメリカ映画。いや、アメリカ映画ではなく、アメリカの音楽を映画で作ったと言ったらいいだろうか。しかもポップソングではなく、カントリー、ブルーグラスといった、大地の香りと荒野の空気が漂う音楽が、主人公たちの暮らしの中から聞こえてくるのだ。

ベルギーにもこんな風景があるのか、という荒涼とした景色が広がる。荒れ果てた土地、あばら家、木々の作る影、錆だらけのトレーラーハウス、そして病気の子供……。もはやいつの時代、どこでの物語なのかもよくわからない。ただとにかく、人がのんびりと生きていくには厳しく辛い、いたたまれない状況がそこにある。主人公たちはただひたすら、その厳しさに直面するだけだ。気が付くと世界が自分たちに牙を剥いているのである。こんなはずではなかった。そこはもっと親密で希望にあふれた場所だったはずだ。そんな思いが主人公たちをさらに崖っぷちに追いやっていく。新天地を求めてアメリカに渡ったものの、その自然と環境の厳しさにただただ神に祈るばかりだった移民たちの悲しみは、おそらくこんな感じではなかったかと思われる。

そこから数々の歌が生まれた。手に負えぬ絶対的な力を前にした人々が、絞り出すように声にした歌だ。実際にバンドマンとして生きる主人公たちの演奏の数々が、移民たちの暮らしの過酷さと悲しみとそれゆえの愛と喜びを、画面からほとばしらせる。時代や場所を超えて、人々に降りかかる同じ悲しみがあり、同じ喜びがあるのだ。たったひとつの一家の小さな小さな物語だが、彼らの音楽がその小ささを果てしない広がりに変えていく。その果てしなさの中に一歩踏み出すことの勇気を、私たちは持つことができるだろうか? いや、持たざるを得ないような場所へと、この映画は私たちを運んでくれる。そこから私たちの人生が始まる。

樋口泰人

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