「1ミリとして動じない女の頑なさ」エヴァの告白 DOGLOVER AKIKOさんの映画レビュー(感想・評価)
1ミリとして動じない女の頑なさ
原題:「THE IMMIGRANT」 (移民)
監督:ジェームス グレイ
ストーリーは
1929年
ヨーロッパから戦火を避けて新天地アメリカに自由と平和を求めてやってきた難民たちを満載した船がニューヨークに向かっている。自由の女神を見つめる、人々の不安げな顔、顔、顔。彼らに戻れる故郷はもうない。船はエリス島の出入国管理局に到着する。
ポーランドから、この移民船に乗ってエバとマグダ姉妹は、遠い親戚を頼ってやってきた。故郷では両親を殺されて、生きていくための糧も失った。しかしエリス島の移民局で妹のマグダは結核を病んでいることを知られて、マグダは隔離され二人は引き離されてしまった。エバは身元引取り人の親戚に拒否されて、強制送還されることになる。病んだ妹一人をアメリカに置いて自分だけがいったん捨ててきた故郷に帰ることはできない。エバは、必死でそこを通りかかったポーランド語の通訳をしていた男に救いを求める。ブルーノと名乗る男は、いったんエバの求めを無視するが、懇願を繰り返すエバを不憫に思って、賄賂を係官に渡してエバを引き取る。
エバは、ブルーノに言われるまま、マンハッタンのアパートに落ち着く。移民局では一見紳士に見えたブルーノは、移民としてやってきた女たちを集めてキャバレーのダンサーとして働かせ、一方では売春させているような男だった。アパートの女たちは、恩人ブルーノのことが大好きだ。エバにもやさしく、気の良い娼婦たちだった。
ブルーノは、おとなしく付いてきたエバを、当然のように自分の女にしようとする。しかしエバは、恋愛の経験もない生娘だった。ブルーノはエバの拒否にあって、怒りまくった末、上客に売り飛ばす。エバは、妹を救い出してアメリカで暮らしていくために、仕方なく運命に身を任せる。しかし、ブルーノの怒りに触れて心底怯えて客を取らされたエバは、すきを見て娼婦館から逃げ出して、遠い親戚の家を探し出して保護を求める。何十年かぶりで再会した叔父と叔母は、ぎこちない笑顔でエバを迎い入れるが、翌日、エバを警察に引き渡し移民局に送る。叔父たちはエバが娼婦に身を落としたことを知って、不法入国者として通報したのだった。エバは強制送還されることになった。
そんなエバに、ブルーノが再び会いにやってくる。エバは、妹を取り戻すためにどうしてもアメリカに残らなければならない。ブルーノにいわれるままエバは娼婦館に戻った。ブルーノは、強い意志をもったエバに、次第に惹かれていく。もう他の女など、目に入らない。
一方エバは、キャバレーのマジックショーを演じているブルーノの従兄のオーランドという男と出会う。オーランドは一目で出会ったばかりのエバを愛してしまう。しかし密かにエバに会いに来たところをブルーノにみつかって殺されそうになる。ブルーノとオーランドの争いは警察沙汰となり、ブルーノは警察に拘禁され、オーランドは、別の土地に向かって巡業に出ることになった。遠く旅立つオーランドに、エバは自分の夢を語る。妹を引き取って、カルフォルニアのような温かい土地で二人で暮らしたい、それがエバの望みだった。オーランドは旅立ち、ブルーノは警察から釈放される。
しかしエバをあきらめられなかったオーランドは帰ってくる。ついに諍いの末、ブルーノはオーランドを殺してしまう。エバは教会で懺悔する。生きていくために、愛してもいない男に言われるまま身を落としてきた。そんな罪を犯してきた自分は神に許しをもらえるのだろうか。真剣に祈るエバの姿を見て,ブルーノは、エバを自由にしてやろうと心に決める。監視に賄賂を使って、隔離されている妹を引き取り、エバと妹にカルフォルニア行きの切符を渡してやる。エバは妹と再会して振り返りもせずにブルーノのもとを去っていく。エバを強制送還から救い出し、無一文だったエバに住居を与え、食べさせて世話を焼き、心から愛してきた。エバを横取りしようとする男を嫉妬から殺しまでした。エバを本当に愛してきた。しかし、エバは去り,ブルーノには何も残っていない。というお話。
マリオン コテイアールの頑なな信仰心と、超然とした美しさ。一方ホアキン フェニックスの酒と金とアルコールにどっぷりつかったダーテイーな姿が際立っている。二人とも、とても良い役者だ。どちらにも共鳴、共感できる。とても悲しい映画だ。
エバは娼婦になっても1ミリとして動じない。少しも譲らない。そんな自分を通していて、無垢な処女の強さと純粋さを維持している。それに比べるとブルーノはずっと人間的だ。移民で来て、生活に困った女たちや、不法移民を救い出して、娼婦にして小金をため、女たちといつも飲んで騒いで愉快に暮らすことが大好きな男だ。それが、とんでもなく美しい女に惚れてしまって自分の人生が狂ってしまう。ついに殺人まで犯して逃亡犯になったうえ、女をあきらめなければならなくなって、無一文となる。背を向けて、振り返らずに去っていく女に「自分はこの女の一体何だったのか」と、泣きじゃくる男を見ていて、ついほろっとなる。人は妥協して生きていくものなのに、一歩も譲らない女のために自分の人生を捨ててしまった男の悲しさ。譲らない女と、それの翻弄された男。何としても妹を自分が守って生きていきたいという強い願望と処女性。男からみたら、こんなジコチュー女のために自分の一生を棒にふることになって、こんなはずじゃなかった、というのが実感だろうか。マリオン コテイアールの美しさよりも、ホアキン フェニックスの落ちぶれ方に、すっかり魅せられた。