「心に重くのしかかる作品」エヴァの告白 覆面A子さんの映画レビュー(感想・評価)
心に重くのしかかる作品
ポーランド・カトヴィツェを離れてすし詰め状態の船で新天地アメリカへ向かう姉妹。
しかし妹は結核にかかり入国できずにエリス島に隔離されてしまいます。
彼女の薬代を稼ぎ、自身もアメリカで生きて行くために
バーレスクの娼婦ダンサーに身を落とす姉・エヴァ。
彼女の過酷な運命と、彼女を取り巻く2人の男たちの愛憎を描き、
移民の暗部に迫るヒューマンドラマで、
昨年、カンヌ映画祭コンペティション部門にも選出されました。
舞台は古き良きアメリカ…なのだけど
この映画はどこかフランス映画みたいに抒情的な雰囲気。
終始天気が曇っててモノクロ映画みたいなけだるさを醸しています。
重く、退廃した悲壮な感じの美人姉を演じるのはマリオン・コティヤール
彼女は『エディット・ピアフ 愛の賛歌』で有名になった女優さんですね。
その脇を、二人の男
『ザ・マスター』のホアキン・フェニックスと『ハート・ロッカー』のジェレミー・レナーが
がっちり固めています。
尚、彼女に焦がれる男性の一人・オーランド(ジェレミー・レナー)は
マジシャンという設定ですが、
このマジシャンという設定がのちのちの伏線に
絡……ん…でくると思ったら…大間違い!( ´艸`)
見事な肩透かしを…苦笑
まぁ、人生はマジックみたいにうまく行かないのね…と思えば
多少途中のショー内容は絡んでいるのかな?
話は最後まで重く重くのしかかり、
ハリウッド映画みたいな単純な胸すくストーリーが好きな人にとっては
結構陰気くさく、モヤモヤが残る作品かも。
心のひだまでを立体的に描いた美しさ・重厚さを楽しむ映画であって
ストレス発散にはなりませぬー。
もちろん、心にはズシン…と文鎮を乗せたみたいに重くのしかかる作品ではあります。
娼婦に身を落とす主人公ではありますが
「生きようと、もがくのも罪か?」
「女をゴミ扱いする男にへつらわない」と言う言葉は胸を打ちますね。
最後テロップが全て流れ終えた後に出て来るメッセージ
KEEP YOUR HEAD (うろたえるな)
というフレーズは、
私は彼女の教会での告解を聞いてしまった
ブルーノ(ホアキン・フェニックス)の彼女へ捧げる言葉にも思えます。
…と思ったらこの「キープユアヘッド」、どうやら製作会社の様ですね。いやん、絡めて考えちゃったわ。。。
それにしてもホアキン…良かった。
終盤エヴァにかける言葉は、よくよく物語のはじまりの流れを考え直すにつれ
ホアキンがエヴァの未来を想うがゆえにかける
人生を賭しての「嘘」である様にも思いました。
さてさて。
余談ですが「カトヴィツェ」は前少しだけ旅したことがあります。
ここで降りて、クラクフへ向かうローカル線に乗り換え、
その途中にあるのが、かの有名なアウシュビッツ(オシフェンチム)。
そのクラクフへ向かう列車のコンパートメントでアメリカ人に出逢ったのですが、私がアウシュビッツに行くと言うと
「おー!なんで君はそんな陰気くさい所に行きたがるんだ!」と
信じられないような顔をされたのを今でも覚えています。
姉妹が恋焦がれてやまないアメリカという「夢の国」、
当時のアメリカ青年のことを「カトヴィツェ」で少し思い出してしまいました。