「大切なのは、楽しむ「心」」her 世界でひとつの彼女 tacoさんの映画レビュー(感想・評価)
大切なのは、楽しむ「心」
素晴らしかったです。
三回くらい泣きそうになりました。
というか、衝撃でした。
人間とAIの恋、という設定自体は別に目新しくもないのですが、これほどまでに繊細で、リアリティがあって、共感してしまうような魅力をもった作品は、今までお目にかかったことがありませんでした。
大がかりなCGにも頼らずに、想像力だけでこんな世界観・ドラマを生み出せるというのは、素直にすごいとしか言いようがありません。
未来批判、というのでしょうか。
技術が進歩して、生活が便利になっていくにつれ、「人間性」が失われてしまうことを危惧する人がいます。
しかしながら、どうしたって時代は変わります。
大切なのは、どんなときでも楽しむ「心」を失わないこと。
何かに夢中になっている人間は輝いています。
その対象が人であれ、物であれ。この映画の主人公は、まさにそんな状態でした。キラキラしていました。
監督自身はおそらく、主人公のような人間を、あるいはこの映画のような時代が訪れることを、批判もしていないし、称賛もしていないんでしょう。判断は観客それぞれに委ねる、みたいな。
個人的な意見を言わせてもらえば、ああいう時代、全然アリだと思いました。夢のような時代じゃないですか! 悲しげなラストを見てもなお、そう思います。
もちろん、人間と機械の関係には限界があります。
でも、人間同士の関係にだって、限界や差異はあります。
主人公セオドアは、OSサマンサとの恋を通じて成長しました。元妻との関係に、折り合いをつけることができました。
それは、あの恋がたとえ作りものだったとしても、二人の感情だけは、心だけは間違いなく「リアル」だったからこそでしょう。
相手が機械にしろ、生身の人間にしろ、何にしろ、それを愛そうとして、人はこれからも傷ついていくし、もがき続けていく。それでいい。そんなことを繰り返しながら、少しずつ前へ進んでいく。
大切なのは、その過程を楽しめたかどうか。
エイミーの言葉を借りるなら、「謳歌」できたか、どうか。
ほろ苦くも勇気をくれる、素晴らしい作品でした。