「「正しさ」の境界線が酷く曖昧に溶けだしていく」新しき世界 えすけんさんの映画レビュー(感想・評価)
「正しさ」の境界線が酷く曖昧に溶けだしていく
韓国最大の暴力団に、8年の長きにわたり潜入捜査を強いられる警察官イ・ジュソン。バレたら惨殺されるという極限のストレスがかかるなか、ある日、会長が急死、後継者争いに巻き込まれることとなる。
「アシュラ」「チェイサー」「殺人の追憶」など韓国ノワールは辛すぎる。暴力シーンは正視できないレベルで残虐だし、結末はいつだって暗黒レベルで一切の救いがない。だいたい韓国ノワールのアクションシーンは何でいつもハンマーや鉈や刀を使うのか。拳銃でやれよ。痛いじゃないか。
「新しき世界」も確かに韓国ノワールではある。作品序盤の拷問シーンではいきなり目を覆いたくなる。でも本作は何かが、画面から醸し出される空気が、ちょっと違う。
有名韓国ノワールの多くが常軌を逸した狂気や、歪みまくった欲望で駆動する、ある意味で理解不能な「暴力」を底流させるのに対して「新しき世界」は、警察、暴力団、あるいは登場人物それぞれが暴力に一定の思想を持っている。
いや、もちろん、犯罪組織の「暴力の思想」なんぞに「正しさ」などない。ないのだが、作品が進むにつれ、「正しさ」の境界線が酷く曖昧に溶けだしていく。なんということばが当てはまるのか、警察が絶対に正しくて、暴力団が絶対に間違っているはずなのに。
警察の持つ暴力思想の象徴であるカン課長、犯罪集団のそれであるチョン・チョン、両者の危うい均衡の狭間で揺れ動く潜入捜査官イ・ジャソン。3人の男たちの攻防が、そんな不思議な感覚を底支えしている。
その中でも特に犯罪集団の有力後継者候補チョン・チョンを演じたファン・ジョンミンの演技力がものすごい。なんだ彼は。なんなんだ。ものすごい演技力じゃないか。泣いてしまったじゃないか。