「陰鬱な作品。」それでも夜は明ける bashibaさんの映画レビュー(感想・評価)
陰鬱な作品。
まず、この邦題に大きな誤りがあります。「それでも夜は明ける」とありますが、いつ、夜は明けたんでしょうか。それとも、これから、夜が明けるのでしょうか。嘘はいけません。主人公は奴隷の身分から、再び、自由黒人の身分に戻っただけなのですから。アメリカ黒人の苦闘は、ご存じのように20世紀になっても続くのです。黒人が大統領になった時代でも差別は残っているのです。邦題は字幕にもあったように「12年間、奴隷として」のほうが数段、良かったように思えます。
さて、肝心の映画ですが、この作品に監督の手腕がどれだけ発揮されているのか、甚だ、疑問に思いました。スティーブ・マックイーンさんの手腕はどこら辺に発揮されていたのでしょう。私にはこの監督の表情が見て取ることができませんでした。残虐な場面が続く映画を撮るのであれば、スピルバーグやタランティーノや園子温、または、韓国人の監督でも良かった筈です。残虐な描写について、一言、云わせてもらえば、映画などより現実の方が、総じて、遥かに残酷なのです。まず、映画には腐乱死体は登場しません。ウジが湧き、ハエがたかる死体の映像はまず、登場しません。溺死体も登場しません。水を吸って、ぶくぶくに膨れ上がった死体の映像も登場しません。切腹をした後、腹の裂け目から臓物が噴き出る描写も、まずありません。私が何が云いたいのかというと、あるがままのことを全て見せては映画の品格が下がるのだ、という事なのです。このことは映画評論家の淀川長治さんがスピルバーグの「プライベート・ライアン」を評して指摘しています。歌舞伎や能ほどでないにしても、やはり、映画にもある程度の様式美は必要だと私は考えます。特に黒人の女の子が木に縛られて背中を鞭で打たれ、皮膚が裂け、血が流れる場面を観て、そのことを感じました。
この作品がアカデミーの作品賞ですか・・・。昨年は「アルゴ」。なんだか、昔よりも作品の質が落ちているような気がしてなりません。脚本の弱さと遠慮会釈のない糞リアリズムに徹した凡庸な演出が作品の質を下げているのでしょう。