「余命30日からの再出発」ダラス・バイヤーズクラブ arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
余命30日からの再出発
80年代、テキサス州ダラス。
酒と女とロデオに明け暮れ、刹那的に生きる電気技師のロン。
ある日、ロデオの賭けに負けた彼は、負けを踏み倒して自分のトレーラーハウスに逃げ帰るが、膝から崩れ落ち意識を失ってしまう。
病院のベッドの上で目覚めた彼を待っていたのは、厳しい宣告だった。
HIV陽性。
余命わずか30日。
エイズ=ゲイ
80年代当時、エイズは同性愛者が感染する病気という偏見に満ちた時代だった。
同性愛者でもない自分がエイズに感染する筈はない、とロン自身、感染したという現実を信じることが出来ない。
しかし、何より痩せ細り衰弱した身体が厳しい現実を彼に突きつけていた。
エイズ治療の新薬AZTの治験に参加出来なかったロンだったが、AZTには強い副作用があると知る。
彼は、アメリカ国内では未承認だが副作用も弱く効用も証明されている薬を求めてメキシコへ。
余命30日?
死んでたまるか!
彼を動かしているのは、
「死にたくない」「生きたい」
という強い意志だが、
言ってみれば、実に自分本位な動機だ。
ダラス・バイヤーズクラブの設立も、
同じ病の仲間を助けるというよりも
どちらかといえば、ビジネス。
しかし、彼は生きるために病気について学び、新薬についてリサーチし、一端の専門家並みの知識を得、彼が設立したダラス・バイヤーズクラブは多くのエイズ患者を助けることになる。
衰弱した身体に鞭打って薬の確保に奔走する彼がふと理解者である医師イブに弱音を吐く。
死なないことに一生懸命で、
生きてる気がしない。
しかし、自堕落に生きてきた彼は
「余命30日」から生き始める。
これが実にいい、というか清々しい。
彼の身体は衰弱していくが、彼の精神は生き生きと充実していくのだ。
一方、皆がロンのように生き直せる訳ではない。
同性愛者に対して偏見を持つロンに代わってゲイ・コミュニティとの橋渡し役となるトランス・ジェンダーのレイヨンは、彼の活動に協力しながらも、どうしてもドラッグを断ち切ることが出来ず、
結局それが彼の命を縮めることになる。
死を前にして彼がクラブの存続の為に疎遠だった父親を訪ねるシーンには胸が詰まる。
彼はドラッグを断ち切ることが出来なかったが、最期まで闘い続けた。
(このシーンのレイヨン、というかジャレッド・レト!その彼の弱さも強さもひっくるめて抱きしめたくなった!)
ロン、レイヨンを演じたM・マコノヒーとジャレッド・レトはそれぞれ20キロ、18キロの減量をしてこの役に臨み、見事にオスカーを獲得した。
減量は役にリアリティを与えはしたが、受賞は彼等のこれまでのキャリアの積み重ねであり、実力だと思う。
どんどん痩せ細っていく二人の傍で、医師を演じたジェニファー・ガーナーの健康的な姿はロンとレイヨンの二人にとっても観客にとっても慰めとなっていたと思う。