「社会の矛盾に一人立ち向かう男、その彼の矛盾と葛藤に感動する」ダラス・バイヤーズクラブ Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
社会の矛盾に一人立ち向かう男、その彼の矛盾と葛藤に感動する
この映画の主人公は、メチャメチャ女狂いのカーボーイ。毎日好き勝手にその日暮らしの様な生活を繰り返し、夜な夜な娼婦と時間を共にする事しか能が無い、刹那的な生き方しか出来ない男なのだ。
だけれども、この主人公ロンは或る日、余命30日と言う宣告を医師から告げられる。
映画を観ている私も、「うん、この痩せた身体なら有り得るわ」マシュー・マコノヒーが演じているロンの風体は、本当の末期患者と言っても誰も疑わないと凄く納得した。
マシューと言えば90年代には、イケメン俳優として、ヒュー・グラントを継ぐラブコメ俳優だったが、良くぞ、この作品では正に末期患者になれたものだと只脱帽する。
話を本作に戻すが、私には世の中こんなにも刹那的に生きている人って本当に存在しているの?思わず「ウッソ~!」と言いたくなる。だがこの物語も実話が基になっている作品だ。
こんなメチャクチャな人生を送っていたロンは、自己の病気を受け入れる事が出来ない。しかし、時間は容赦なく過ぎ去るので、彼も次第に事の深刻さを悟り、自分なりに病気に付いて色々と学び始めるのだ。
1980年代初頭と言えば、エイズは原因不明の難病として主に同性愛者の中で感染が拡大していった事から、エイズ患者=同性愛者と言う認識しかない時代で、患者は死の恐怖と共にセクシャルマイノリティーのレッテルを貼られ事で、闘病に加え更なる偏見や差別と言う問題にも晒される過酷な状況にあった。
しかし、この映画の主人公ロンは気丈にも、自分に必要な新薬が、薬事法や製薬会社等の問題から、副作用の割に効き目の無い薬しか販売されない事から、ロンはアメリカ国外の医師から最善の治療法を教わり、海外から効き目の有る新薬の密輸を始め、エイズ患者に薬を提供する「ダラスバイヤーズクラブ」を設立し、多数の患者に新しい可能性の道を提供する、そんな彼の生き様を描いて行く作品なのだが、本当に緊張感が胸に迫る。
それは、まるで目の前に本当にロンがいて、この作品の中に自分も入ってしまったような錯覚すら憶えるような臨場感が漂っている作品だ。
確かに私もLAで治験の募集広告を観た憶えが有るが、製薬会社も開発から販売迄には膨大な時間と費用を費やす事から、色々な利権が絡んで中々患者にとっての最良な状況にならない哀しい現実がこの映画ではリアルに描かれていく。
これ程までに刹那的に生きていたロンが、半分は金のためではあるけれど、命がけで薬の密輸を続ける姿は感動すら覚えるのだ。
そして、ロンの最も軽蔑の対象だったゲイのレイヨンはついに彼のビジネスパートナーとなり、ロンの右腕となるが、そんな彼?彼女を好演しているのはジャレド・レトだ。彼も「ミスターノーバディー」とは余りにも違い過ぎて彼が演じているとは分からなかった。
そしてロンを影から支える医師をジェニファー・ガーナーが熱演し、本作をより深い感動作品にしている事にも注目したいよね。