「カナシミを受け止めてくれる人がいるというヨロコビ」インサイド・ヘッド 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
カナシミを受け止めてくれる人がいるというヨロコビ
ピクサー久々のオリジナル作品は、11歳の少女ライリーの
“感情”が主人公、というユニークなアニメーション。
『さすがは』って言葉はマンネリも連想させるのでちょっと使いたくないのだけど、
それでもやはりさすがピクサー!というべきか、
ノンストップの快テンポで動き回るキャラたちの応酬が楽しい楽しい。
世界観の作り込みもしっかりしていて、
睡眠することで1日の記憶を整理するシーンとか、
日中受けたストレスを夢で再現または解消するシーンとか、
実際の感情の仕組み(つってもちょっと本でカジった程度にしか知らんけど)を
世界観としておもしろおかしく取り込んでいるあたり、
大人も子どもも分かり易いようによ~くアイデア練られてるなあ、と感じる。
イマジナリーランドとか夢スタジオとか深層意識の牢獄とか、まあ出るわ出るわ、
カラフルなココロの施設の様々なアイデアにワクワク。
そしてそこで繰り広げられるドタバタにニヤニヤ。
主人公たちが駆け回り飛び回るアドベンチャー要素もしっかり盛り込まれていて飽きさせない。
(ただ、ここの疾走感がピクサーの過去作より劣る気がするのが不満点ではある)
一方でライリーが送る日常も、子どもの頃に感じた不満や不安が事細かに描写されていて唸る。
両親のケンカなんて見た日にゃまるで世界の終わりみたいに思えたものだし、
僕は転校の経験は無いけど、それでも中学校に入学した時とかは
知らない同級生やオソロシイ先輩とかが一気に増えて不安だったしね。
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印象的だったシーンは、
ライリーの空想の友達・ビンボンの最後の姿。
たとえ忘れ掛けられていても、思い出してもらえなくても、
彼はずうっとライリーの友達でいてくれたんだと思うと涙。
そしてもうひとつは、
ヨロコビとカナシミが、ライリーを見守りながら肩を寄せ合う姿。
歳を取れば取るほどに気付かされるのは、
世の中はヨロコビばかりじゃなく、むしろそれ以外の
イヤな感情を呼び起こすものの方が多いという事。
この映画のライリーのように、世の中のすべてが自分に
敵意を持って襲い掛かって来ているんじゃないか、と
思えるような時期もある。
イライラしてみせても怒鳴ってみせてもどうしようもない、
「明日はきっと良い日になる」なんてとても信じられない、そんな日もある。
時には悲しみに身を委ねて、自分が一体何に苦しんでいるのか整理する時間が必要だし、
自分の力ではどうしようもないと認めて助けを求める事も必要だったりする。
そうして悲しみをありったけ吐き出した時、
それを両腕で受け止めてくれる誰かがいてくれる、その喜び。
これは何物にも替え難い。
映画のみならず自分自身のいつかの経験から言っても、
それはいつまでも大事に記憶される気持ちだと思うし、
前進する為の力を与えてくれるものだと思う。
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入り雑じり色混ざり、どんどんフクザツになっていく人の心。
どんな感情も記憶も、前進する為の大切なものだと
前向きに捉えていけそうな、そんな気持ちになれる映画。
と同時に、自分の悲しみを受け止めてくれる人達が
いてくれるって本当に幸せな事だし、
なるべく自分もそうありたい、と感じた次第。
良い映画でした。
それにしても笑ったアイデアは、
他の人たちの個性豊かな頭の中までいくつか登場する所。
最後のイヌ・ネコなんて、中も外もあんまり変わんないんですけど(笑)。
<2015.07.18鑑賞>
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長い余談1:
僕はいつも宣伝に関する部分は本編とは切り離してスコアを付けている。
(作り手が意図してない部分で作品の評価が下がるって不憫だもの)
だけどねえ、今回は余計な宣伝のせいで気分が盛り下がったのは間違いない。
監督ピート・ドクターにもドリカムにも恨みは無いが、
本編直前に作り手のメッセージやら本編とは直接関係の無い
イメージソングやらを無理やり聴かせるのはやめてほしい。
さあいよいよ映画だ!と気合を入れたところで、
作り手の顔や話題作りの為の曲を見せられると、
否が応にも映画が“商品”であると認識させられて
も・の・す・ご・く気分が盛り下がる。
(だいたいメインの客層であろう親子連れがピート・ドクター
の顔を見て「監督だ、わあい」と喜ぶワケないと思う)
誰だ、こんなガッカリ構成を考えたのは――。
僕は目を閉じて、インタビューも曲も意識から締め出してました。
おまけに今回は短編までもが全編歌なので……しかも
ハワイアンソングがそんなに好きな訳でもないので……
それになんか歌詞も深みが無いししつこいしなので……
本編を観る前からなんだか耳が疲れてしまった。
全編オルタナティヴロックだったら喜んで観るけど。
(絶対ファミリー向けじゃないよそれ)
長い余談2:
某映画誌の評論家等が『キャラに人間がコントロール
されてる描写は不気味』みたいな内容を書いてたのだが、
子どもの絵本とかだとそんなのはありふれた描写じゃないかしら。
むしろ精神分析の関連用語だらけになりそうな内容を
こんなに楽しく簡潔にビジュアライズできるアイデアに驚嘆する。
そもそも世の映画の全部が全部オトナ向けに作られてるワケじゃないんだし、
ファミリー映画に対してそんな穿(うが)った見方をして楽しいのかね、と思う。