「世界中、どこに持って行っても恥ずかしくない作品」太秦ライムライト マスター@だんだんさんの映画レビュー(感想・評価)
世界中、どこに持って行っても恥ずかしくない作品
冒頭、大部屋の役者を割り振りする名札に、つい「福本清三」さんの名前を探してしまう。この映画での役名は「香美山清一」なのだと自分に言い聞かせる作業が必要だ。
清三さんは普段はスターの陰だが、こうしてじっくりアップで見るとコンタクトをはめているかのように、純粋な黒い瞳の持ち主なのだとあらためて知る。真っ直ぐな人柄を想わせる目だ。役とは違って目つきは悪くない。
時代劇の衰退、そして年齢が壁になってすっかり出番が減ってしまう香美山。それでも愚痴ることなくひたすら稽古する姿に惹かれていく新人女優さつきを見ると、日本の若者もまだまだ捨てたものじゃないと嬉しくなる。
自身が生きてきた映画産業の未来を託せる若者との出会いは、無口で感情を表に出さない不器用な老俳優にとって久々の眩しい光りだったに違いない。
山本千鶴の殺陣も、太極拳の選手だけあってキレがいい。
身も心もボロボロになりながら、スターを引き立てることに徹する香美山。自身にとって引退のメモリアル作品だから最後の力を振り絞るのではない。スターや仲間に迷惑を掛けないために、与えられた役を最後まで演じきる。
ここに切られ役一筋の福本清三という役者像が重なる。フィクションなのにドキュメンタリーを観ている気分だ。
本気になった松方弘樹もさすがの貫禄でカッコいい。
1本の作品としても素晴らしいデキだ。
なんといっても邦画としてはラストの切り上げがシャープだ。だらだらと引っ張らない編集がいい。カメラアングルも効果的。
音楽と音響もよく、“本物”の時代劇らしさを残しつつ、ハリウッドのアクション映画のようなリズム感がある。たっぷりした低音の使い方も、これまでの時代劇とはひと味ちがう。
群像劇とアクションが見事に調和して、今年観た50数本のなかで一番お金を出した甲斐がある。
世界中、どこに持って行っても恥ずかしくない作品。
ひとつのことに一途に生きてきた香美山(=福本清三さん)に、国境を超えて拍手が送られることだろう。