「「視点」というものについて」FORMA よしたださんの映画レビュー(感想・評価)
「視点」というものについて
走ってる電車、どう見ても東急大井町線だよな。どのあたりでロケしたのかな。そんなことが頭から離れないまま映画は進んでいく。
綾子が電気屋に入って、店のいくつかのカメラに撮られたいろいろなアングルの映像が、並んだテレビに映し出されるシーン。人の姿は、どの(誰の)視点から見るかによって様々に変わるという、この映画のテーマを象徴している。秀逸なアイデアだと思った。
私個人の見方としては、綾子ではなく、由香里のほうが我慢ならないくらいに腹立たしい性格だと思う。嫌な女である。これ、でももしかしたら、このフィルム自体が綾子の視点に立っているから、そのように感情移入しているだけなのかもしれない。なぜなら、綾子が殺されるシーンまでが、綾子の視点で描かれるのだから。そして、誰が送り付けたか分からないが(物理的にはそのようなことは一人の登場人物にしか出来ないのだが)、その死の真相が撮影されたビデオテープを父親の手元に送るのも、綾子の意志に他ならないような気がする。いや、繰り返すが、ビデオテープを送ることが出来るのは、話し合いの場に闖入した男しかありえないのだが、これはその男の意志ではなく綾子の意志であろうと思うのだ。
不貞の関係はどっちが誘惑したのかとか、嫌がらせをしているのはどちらなのかとか、どちらがいじめの被害者なのかとか、そうした語り手によってどっちにでも転がる話で、世の中埋め尽くされている。そんな、人の世を埋め尽くす話の中からひとつまみ取り出した、それをとても面白い映像表現で語っている。
上映後、監督やキャストの舞台挨拶があったのは、びっくりした。「ヒミズ」の演技で気になっていた光石研さんの素顔も見れて良かった。
期せずして、光石さんが、ロケ地は尾山台だと教えてくれた。ありがとうございました。