「命の叫び、魂の叫び、人間の尊厳がここには溢れている!」自由と壁とヒップホップ Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
命の叫び、魂の叫び、人間の尊厳がここには溢れている!
こんなにも厳しく、過酷で悲惨な現実社会でありながら、そこに生きる人々の苦しみをこれ程までに、共感を持てるように、明るく、力強く描き出した作品を私は嘗て観た事が無い。
この私達が暮している日本から、他の国々の現状へと一度目を向けると、この地球の中では実に様々な相入れない現実の壁があり、それが越えられない問題として大きく横たわり、分裂を引き起こしている事が、この小さな惑星地球を埋め尽くしている事が見えてくる。
宗教、人種、民族、習慣、それぞれの国々の文化や歴史的背景の相違に因る様々な矛盾と対立する価値観の相違から起こる争いの現実があるのだ。
それこそが良く言えば多様性の別の姿と言う事も出来る。しかしその多様性の有る現在の地球の社会では、父系文化がその中心的な価値基準であり、母系社会ではない為に、父系社会の中に於いては常に、自己の属する集団とそれ以外の他者の属する集団との中間では衝突が有り、互いに相容れられない現実の壁が大きく立ちはだかる。
特にイスラエルのパレスチナ地区の問題は深刻で常に、武力に因る闘いが日々繰り返されている。これらのニュースを見聞きすると彼らは特別に暴力的な人種と勘違いする。
だがこの国のこの地域に住む人々こそ、本当の事言えば、誰よりも平和を望み、暴力を肯定している人間などいない筈だ。
だが、現実的には暴力から始まった憎しみは、新たな争いの火種となり暴力の連鎖の鎖は断ち切られる事なく、エンドレスに続いているのが現在の実情なのだ。
しかし、そんな空爆や、銃撃戦や、闘争がエンドレスで繰り返され、何時亡くなるとも分からない明日を信じる事が出来ないこのパレスチナの若者の中から、暴力で訴え、武力で戦うのではなく、音楽に因って互いを理解して行こうと試みる、ヒップホップのリズムに乗せて、自分達の現状を歌に託し、伝えていく音楽に因る平和ムーブメントをしている多くのヒップホップアーティストが多数デビューした。そしてその熱は大きく飛び火し、パレスチナ地区から西の地区へ移動したりしてパレスチナ地区の様々な不便な、検問と言う難関を潜り抜けて繋がって行こうと立ち上がる彼らの姿を観ていると、自然と涙が溢れ出した。
人間とは、どんなに過酷で劣悪な環境に暮していたとしても、必ず自己の世界の平安なる未来を信じて、その平和を実現する方法を自ら模索して希望に生きようとする。
そんな彼らの姿を観るのは本当に美しいし、愛おしくも有り、感動的だった。
かつては東西を分断していたベルリンの壁が崩壊する事など有り得ないと誰もが思っていたが、現実は或る日、突然変化した。
暴力に因らず、音楽に因って世界に平和が訪れる事を夢に観て、日々活動を続けるDAMを始めとするパレスチナやイスラエルのヒップホップ音楽を愛する彼らの長い大きな願いが天に届き世界に平和が訪れる日を願わずにはいられない!
どんなに辛く哀しく、厳しい現実の前でも、非暴力の世界を築く為に、音楽で立派に生きる若い彼らの願いが一日でも早く実現し平和になる事を本当祈らずにはいられない心境にこの作品を観ているとなる。
こんなに厳しい現実の中で生きる人々の生活の中に希望が溢れる、生活が有る事を描いた映画が他に有るだろうか?
否、明日をも生き延びる保証さえない現実の生活を送っているからこそ、高い理想に生きる事が出来るのかもしれない。
これ程までに、若者の崇高さ、人間の尊厳を気高く描いている作品は他には無いだろう!是非観て欲しい作品だ!