プリズナーズのレビュー・感想・評価
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苦い人間ドラマ
私も子供がいるので、同じ立場になったら主人公と同じ事をしてしまうかもと、見ていて怖くなりました。親の愛という絶対的なものさえ、間違った行動を生む、辛辣な映画でした。
主人公が、最後、穴に落とされます。日頃の心掛け<常に備えよ>が活きて、彼は笛を持っていました。それを鳴らせば、助けがくる、良かった!という見方の人が多いようですが。
笛のおかげで主人公の命は助かるかもしれませんが、家に帰ったところでどうでしょう。家族や隣人との信頼関係は壊滅状態です。主人公の<常に備えよ>に集約されるようなマッチョな父権主義に、周りの人々は呆れ恐れています。
主人公の絶対的な主義が、不要に人を傷つけ、事件のレッドヘリングになっています。<常に備えよ>を見習おうという映画ではなくて、そういった盲目的な主義や正義は怖い、そこを描きたかった映画だと思います。
主人公への違和感は、実は冒頭の家族パーティーの時点で描かれています。そういった細かい点を見逃してる方は、最後、謎が解けてスッキリという感想を持たれるのでしょう。
とにかく考えさせられる練られたドラマ
ゾディアックのようなドラマを楽しめました。一つの事件を通して、関わる人間達の人生が、この映画の場合、暗転していく。
謎解きに対する爽快な答えも用意されています。
人を救うために人を拷問する。
本当に犯人かもわからない状況で。
自分でもどういう判断をするかわからないなと考えさせられました。子供をさらわれた家庭が二つあるのも、二つの家庭のスタンスを通し、深く考えさせられるものがありました。ドラマ作りが深いです。
ハッピーエンドの裏に被害者ありという、結末もまた、深く考えさせられます。
壁一枚、隣の席、すれちがった人。このような非日常はどこにでもあるのではないかと思わされ、日常に潜む狂気に震えます。
緊迫の2時間半
ドゥニ・ビルヌーブのハリウッドデビュー作。
前作「灼熱の魂」も強烈な作品だったが、本作もまた強烈だ。
二組の被害者の両親、担当刑事、それぞれが異なる心情を抱えているが、そのどれもが理解できるものだ。
ヒュー・ジャックマン演じる父親は、狂気の行動にでる。
娘が戻ったときに父親が必要だ…と諭す刑事に対し、娘はなぜ父は助けに来てくれないんだと待っている…という悲痛な思いを怒りとともにぶつける場面で、その凶行に及ばざるを得ない父親の追い込まれた心情が露になる。
次々に現れる容疑者が、最後に線で繋がるストーリー展開も良い。
2時間半という長尺を緊迫感を落とすことなく引っ張る手腕は見事。
真犯人がちょっとホラーっぽくなってしまったような気はするが。
迷いもがくほどに魔物と化す
いやあ、怖かった。そして面白かった。
語り口が淡々としているので中盤辺りで
ウトウトしてしまったシーンもあったが
(最近仕事のせいか眠気がヒドイ)、
物語が進むほどに恐ろしさがジリジリと
増していく、上質なサスペンススリラーでした。
雪のようにしんしんと、冷え冷えとしていて、
身も凍るような恐怖の瞬間も幾度も訪れる。
他の方も書かれているが、この雰囲気は
『ゾディアック』や『羊たちの沈黙』
といった過去の秀作・傑作スリラーのよう。
* * *
容疑者アレックスの拙い語り。
地下室のミイラ死体。
奇妙なペンダント。
真夜中の侵入者。
失踪した老婆の夫。
蛇。
円形の迷路。
逃げ延びた少女の言葉。
散りばめられた点と点とが少しずつ線で
繋がっていき、その度に背筋を悪寒が走る。
しかもこれだけヒントを散りばめながら、
事件の全貌は最後の最後まで見えない
という巧みな脚本もスゴい。
遂に真犯人が明らかになった時の衝撃たるや!
* * *
ミステリとしても優れているが、
テーマの部分も興味深い。
怒りと焦りに心を囚われ、
モラルのタガが外れていく父親ケラー。
事件に翻弄されて自制心を失う刑事ロキ。
普段は善良で温厚な人間も、心の牢獄のような
この八方塞がりの状況に追い込まれれば、
一体どう変わってしまうのか?
僕らの被ったモラルの皮の下には
一体どんな怪物が潜んでいるのか?
* * *
犯行動機などについての自分なりの考察。
(このパート、長いので興味のない人は
*と*の間を読み飛ばしてください)
表情ひとつ変えずにあの老婆は語った。
「これは神との戦いなのだ」と。
あの老婆(達)の目的は、
子どもを殺すことではなかった。
子どもを救おうと必死になる人々を
焦燥と苦悶という感情の牢獄に閉じ込め、
彼等を恐ろしい“魔物”に変える事。
神の慈愛を信じる人間を堕落させることで、
神の威厳を失墜させる事。
それが彼女の『神との戦い』だったと思しい。
老婆がケラーに語っていた事が真実なら、
彼女とその夫もかつては
熱心なキリスト教徒だったようだ。
だが息子の事故死をきっかけに彼女らは変わった。
息子を奪い去った神に対し、
彼女らは激しい疑念と憎悪を抱いていた。
ケラーは彼女に己の信仰を試されたとも言える。
冒頭で神への感謝と祈りを口にするケラーだが、
娘の失踪そしてアレックスへの拷問によって
彼は神への信仰を殆ど失いかけてしまっていた。
僕のような無神論者にとっては、ハッキリ言って
神への信仰など大した問題ではない。だが、
信じる人々にとってそれは人としての徳を説き、
人生の理不尽さに耐える為の大切なものだ。
形はどうあれ誰もが自分なりの信仰のような
ものを持っているものではないだろうか?
それを取り上げられる事は、生きる術を
破壊されるのに等しい残酷な事だと思う。
だが、ケラーは赤い笛を見つけた娘の夢を見た。
そして、地下で偶然にも同じ赤い笛を見つけた。
ケラーにとってそれらは、娘の生存を伝える
神からの啓示のように思えたに違いない。
最後、ケラーは再び神への祈りを口にする。
「神よ、あの子を救いたまえ」と。
彼はぎりぎりのところで信仰を
取り戻せたのだろうと僕は考えている。
* * *
だが……
考えるも恐ろしいのは、短い人生において
2度も理不尽な暴力に晒されたアレックス。
彼は果たして、その後の人生を
何の問題もなく過ごせるのだろうか?
主人公の行為によって彼が今後、あの
模倣犯テイラー以上に歪んだ存在と
化してしまう事は無いのだろうか?
人生を歪められるほどの――人の善良さを
一切信じられなくなるほどの――理不尽な暴力。
ゾッとするが、そんな暴力に晒される事は、
誰にでも起こり得る事なのだと思う。
……願わくば、なるべくそんな目には
遭わずに人生過ごしたいもんですが。
<2014.05.10, 24>
冒頭から備えよ。
153分の長尺と聞いただけで、大概嫌な予感がするものだけど
今回はどうしても観たい作品だったので、一本(普段は二本)で
観に行った。観終えて…いや~お腹一杯^^;非常に面白かった。
まぁ題材からして、スッキリサッパリの爽やか系ではないうえ、
酷い拷問シーンやら蛇やらフリーメイソンやらロリコン?やら…
キモイのがたーくさん出てくるんで…嫌いな方はご用心ください。
明るいのは冒頭のみ、あとは終始重く辛く寒い極限が広がります。
だけど本当に…恐ろしく感じるのは、
あったじゃないですか!日本にだって、こういう誘拐・失踪事件。
例えば犬の散歩途中に忽然と姿を消した少女。
何日か後に無事保護されたのは良かったけれど、見つかるまでの
ご両親の憔悴、そして事件の真相に至るまで恐ろしいことばかり。
とても他人事とは思えないところが、まずはこの事件の肝。
厳格な父親ケラー(ヒュー)の一人娘が友人と共に忽然と姿を消し、
地元警察が怪しい青年を尋問するが一向に決め手が見つからない。
容疑者アレックス(ポール)は10歳程度の知能しか持っておらず、
証拠が掴めない警察は彼を釈放する。が、彼に疑いを抱くケラーは
アレックスを逆誘拐し、拉致・監禁・拷問に踏み切る。その間も
担当刑事ロキ(ジェイク)は犯人探しを黙々と進めるのだったが…
まぁとにかく(長いんだけど、その)長さを感じさせない巧い脚本。
観客をどんどん事件の闇に引き込み、謎を振りまいて蹴散らす。
真犯人はどいつだ?やっぱりこいつなのか?いや…違うのか?と
最後の最後まで掴みどころのない謎深さ。演じる俳優もさすがで、
どの場面のどの描写をとっても抜かりがない。憔悴していく家族と
血まみれになって闘う父親。もう正義もへったくれもありゃしない。
とにかく早く犯人を割り出してくれ!でないと誰かがまた死ぬぞ!
観客はもう冷や汗タラタラ。
そして後半。えーっ!!とビックリ仰天すること請け合いなのだが、
さぁ種明かし…冒頭からあちこちに撒かれてきた伏線の全体回収。
あーそうか。あーそうだったか。と頭の中はな~るほどザ・ワールド!
この脚本、完全オリジナルというから大したものだ。
確かに後半で、エ、そんなことできるワケが?なんて思いもするが、
あの犯人だから、できたワケなんですよ。つまりここで、
「常に備えよ」←(冒頭でケラーが息子にいう言葉)が活きてくるのだ。
これ、今作では全ての人間に共通していた言葉だったんだな。
備えあれば憂いなし。なんて日本人もよく言うけど、漠然とそれを
遂行してたんじゃダメなのね。常に最悪の場合に備える万事態勢。
ほんのちょっとの見落としが、大惨事に繋がるといういい例だった。
最後の最後は予想できたけど、いやしかし、恐ろしいのに面白かった。
ところでふと考えた。いちばん可哀想だったのって…果たして誰だ?
私は間違いなくあの人だと思うんですけどねぇ^^;
(しかしジェイクのお腹の出っ張り具合、良いんだわ~玄人っぽくて)
2時間30分という長さを感じさせない
2時間30分という長さを全く感じさせないスリリングな展開。真犯人も最後までわからず、一体誰が犯人なのか自分の中で色々と詮索しながらの鑑賞だったのでどっぷりと映画の中に入り込むことが出来た。事件が解決した時のその陰に秘められた真実もショッキング。キャスティングも絶妙で、父親役のヒュー・ジャックマンが、容疑者を追い詰め常軌を逸した行動を取る姿や、10歳児程度の知能しか持たない容疑者役のポール・ダノの時折見せる残忍さなど素晴らしかった。
緊迫感溢れる映画でした。
効果音の使い方がうまく、ハラハラしながら次の展開を見ていました。
自分の子供が誘拐されて狂気的になるお父さん。これは「もし自分が事件の当事者だったら同じような行動をとっていたか?」とか考えて見てしまいました。
作中には結構ナゾのまま伏線を拾わない箇所があったように思います。
•アレックスは本当にIQが低いのか?それとも最後まで秘密を貫き通したのか?
•子供服を買っていた迷路男は一体何だったのか?
あと、出演者の演技がみんなうまい。怒りに震えるシーンや無口なアレックスを演じる人など。
インターネットでいろんな方のレビューを読んでて、この作品の裏テーマが分かりました。それは、
•「もし自分が子供を誘拐されたら、自分で解決しようとするのが正しいのか?警察に任せるのが正しいのか?冷静に考えろ。」
•「フリーメーソンのみが事件を解決できる。」ロキ刑事の指輪や迷路がその暗示。
スリラーなのか
『灼熱の魂』のドゥニ・ビルヌーブ監督による本作。
『灼熱の魂』は、表層と底流で違う次元の物語が並走する映画だった。
本作も、表面上は、ある日突然に娘を誘拐された家族の物語をスリラーの体裁で撮っている。
撮影ロジャー・ディーキンスによる自然光を生かしたシビアな映像が、スリラーとしての怖さ・冷たさを煽る。かなり長尺の映画だったが、映像の静かな怖さに最後まで引っ張られた。
しかし、本作の本分は、スリラーとしての「怖さ」でも、ミステリーとしての「謎解き」部分でも無く、別の事だったように思う。
他のレビュアーの方がお書きになっているように「囚われし者たちの在り様を観る映画」なのだと思う。
プリズナーズ(囚われの身)とは誰のことを指すのか?
表層的には誘拐犯に囚われている子ども達の事なのだろうが、自身の信念に囚われている父親ケラーの事でもあり、薬に囚われた母親でもあり、無能な組織に囚われている捜査官ロキでもあり、狂気に囚われた犯人でもあり、登場人物が全員、囚われし者プリズナーズだった。
—
被害者の父親ケラーは、容疑者を誘拐し口を割らせるために拷問を加える。その残虐さは日に日に増していく。
ケラーの行動は、娘への深い愛情あってのことだが、リバタリアニズムという彼の信念にも則っている。
その描写は、誘拐事件の被害者の苦悩というよりも、もっと根源的で普遍的な、
「苛烈な危機に面した時、人はどういう行動をとるのか?人は何に則って行動するのか?」
を写し取っているようにも思う。
(「人」を「国」と置き換えてみると、『ゼロダークサーティー』的な問題を示唆しているようにも思える。)
必要に迫られた暴力(必要だと信じている暴力)は、果たしてどこまで許されるのか?
本作は、その行動に対し、倫理的な是非を下さない。
(観客に、ステレオタイプな共感も批判も許さない描写の仕方だったと思う。)
是非を下さない代わりに、必要だと信じるが上での暴力に「囚われた」者の姿を刻々と描写するのみである。
ラスト「赤い笛」の幕切れは、父親の信念を肯定しているようにも否定しているようにも見えた。
—
すべての人がプリズナーズ。何かに囚われ迷路に陥っている。
本作で「迷路」の絵が度々出てきた。
シャルトル大聖堂にある「エルサレムの道」と呼ばれる迷路の文様とも似ていた。
いにしえの巡礼者達はこの迷路を懺悔しながら歩いた。
本作は、迷路を惑い歩く者たちの映画だったのだと思う。
—
迷路の他にも、宗教的な警句、捜査官の「ロキ」という名前、ロキの首筋に刻まれた入墨、蛇などなど、様々な暗喩にあふれている映画だった。個人的に残念だったのは、そういった諸々が、ペダンチックな方向に転びすぎてしまったかなと感じた。『灼熱の魂』では、もっと上手く物語の中に取り込まれていたと思う。
題材と主題が微妙に乖離してしまったような気がしてならない。
怖いけど長い
子供が誘拐されて、ウルヴァリンが容疑者に怒りの拷問を加える。
途中で神父の地下室に監禁された男の死体があったのが怖かった。あいつはもしかしたら、真犯人のおばさんの夫だったのかな。
監禁が数珠つなぎで連鎖していくところが俯瞰でみると滑稽な感じもした。
真犯人のおばちゃん、どんな意図で子供をさらっていたのか、なぜすぐ殺さないのかよく分からなかった。「神への挑戦」とのことなのだがピンと来なかった。結局最後は殺してしまうのだろうか。
ジェイク・ギレン・ホールが刑事なのにチンピラで『エンド・オブ・ウィッチ』みたいだったが、ふっくらしていた。
ちょっと長くて少しうとうとした。
地味で重めのサスペンス
当初本作は、スルーする気で満々だったが、『灼熱の魂』の監督作品と聞いてスルー出来なくなった。
ストーリーはシンプル。
娘が誘拐され容疑者が捕まるも、決定的な証拠も証言も得られず釈放。
業を煮やした父親は、密かに容疑者を誘拐監禁。娘の居場所を吐き出させようとするが…。
サスペンスの緊張感はなかなかのもの。このジャンルとしては長尺の方だが、最初はゆっくり、徐々に深まっていくサスペンス。
明かされる真相は結構トリッキーで、一度観ただけではちょっと分かりにくいところも。
ただ、伏線と回収の仕方には唸らせるものがある。ラストの幕切れもキレがある!
観終わってからジワジワくるタイプの作品かな。
被害者の家族の心情は丁寧に描いていて、感情移入しやすい。だから、行き過ぎた行動に走っていく父親に、自分だったらどうするか?と考えざるを得なくなる。
一方、刑事の視点では、彼のパーソナルな部分がほとんど描かれないので、あくまで事件を第三者視点で俯瞰するための人物ぽくて、ちょっと勿体無い気もした。
また、被害者の父親に監禁され、激しい虐待を受ける容疑者のその後なども、あっさりと淡白にしか描かれないのもちょっと惜しいか。
衝撃度で言えば『灼熱の魂』は超えられなかったかな。
とはいえ、久々に骨太のサスペンスを観たなあ、と大満足。
タイトルがなかなか深い。『プリズナーズ』即ち『囚われし人々』……色々な意味で、登場人物たち皆囚われていましたね。
この監督さんの次回作が、『白い闇』のジョゼ•サラマーゴ原作の『複製された男』との事。
しかも早くもこの夏公開らしいので、今から楽しみ過ぎる!
オリジナル脚本がうらやましい。
骨太なサスペンス映画、というところである。これがオリジナル脚本というのがなんともうらやましい。
感謝祭の日、ふたりの少女が行方不明になる。
ふたりが遊んでいたというRV車はすぐに発見され、その車に乗っていたアレックス(ポール・ダノ)が拘束される。
だが、それらしい自供を得られることなく、アレックスは釈放される。
それに我慢ならない少女の父親ケラー(ヒュー・ジャックマン)。アレックスを拉致し、なんとか娘の居場所を聞き出そうとする。
一方、捜査を担当するロキ刑事(ジェイク・ギレンホール)は、現場であやしい男をみかける。
ミス・リードを誘う画面作りはさすがである。ドゥニ・ビルヌーブ監督のゆっくりと対象に迫る演出と、雨や雪、よくて曇天、そして夜の映像とすべてに渡ってロジャー・ディーキンスのカメラが効果的である。
アレックスの言葉をすべて信じるならば、この真相には容易にたどり着く。だが、そうはさせない何かが画面に横溢していた。
模倣犯が現れるのは陳腐だとしても、それなりに効果的である。
メリッサ・レオは名女優である。が、僕は彼女の素顔がよくわからない。本作でも老けメイクをおそらくしていて、ずっと眼鏡をかけている。
もし、2回目に観ることがあったとしたら、彼女を中心にすえて観てみたい。すると違った風景が見えてくるのではないか。
銃を構えた彼女を観て、いっとき頭が混乱してしまったことを告白しておこう。
まんまとだまされた。
本作は一級品である。
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