「事件の顛末と人の心の闇にじっくり迫り、引き込まれる!」プリズナーズ 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
事件の顛末と人の心の闇にじっくり迫り、引き込まれる!
失踪した娘を捜す父親。
近作では「渇き。」などありふれた設定ながら、これが面白い!
映画は、設定はシンプルでいい。
それをどう見せるかだ。
これぞ、サスペンス・ミステリー!
「灼熱の魂」でも手堅い演出を見せたドゥニ・ヴィルヌーヴが、2時間半の長尺をじっくり見せる。
引き込まれ、緊迫感もあるが、作品はエンタメ系とは違う。
重く暗く、静かに、事件の顛末と人間の心の闇に迫っていく。
この作品がズシッと響く要因は、主人公が狂気に囚われていくドラマ性にある。
不審者が捕まるも、証拠不十分で釈放され、何の進展も無い警察の捜査に苛立つ父親は、遂にはその不審者を拉致・監禁、暴行を加える。
それは娘を愛するが故の行動なのは分かる。
しかし、もし犯人ではなかったら…?
聞く耳持たず、犯人と決め付け、暴行は拷問と化していく。
哀しい事にその姿は、娘をさらい娘を苦しめているかもしれない犯人と何処が違うと言えよう。
アナタならどうするか。
こんな暴挙はしないと口では言えるが、極限状態の人の心の闇はどんな行動を起こすか分からない。
その一方で、警察は少しずつ少しずつ、事件の核心に近付いていく。
捜査中に見つかったある家の床下のミイラ、浮かび上がった別の不審者、十数年前の失踪事件…。
本事件と一見繋がりがないように見えて、それらのピースが事件解決へ収束していく。
事件捜査モノのサスペンス・ミステリーとしての見応えと醍醐味充分。
ヒュー・ジャックマンが「ウルヴァリン」や「レ・ミゼラブル」とはかけ離れたダークな役所を熱演。
ジェイク・ギレンホールはプレッシャーを感じつつも事件解決に尽力する敏腕刑事を演じ、こちらも印象を残す。
テレンス・ハワード、マリア・ベロ、ヴィオラ・デイヴィス、ポール・ダノ、メリッサ・レオ…食指が動かずにはいられないほどの実力派が脇を固める。
また、ロジャー・ディーキンスによる美しい陰影の映像が、作品の雰囲気をより高めている。(この名カメラマンにオスカーを!)
主人公は根は善人だ。
それ故、自らの行いに苦悩する。
信心深いクリスチャンでもある。
罪深い行いは罰せられる。
暴挙に出なければ…。
ラスト、身を襲った悲劇は避けられたかもしれない。
重厚なサスペンス・ミステリーとドラマの世界に、ハラハラし、考えさせられ、非常に堪能した。