「日本アニメーション史上のエポックメイキング」風の谷のナウシカ りゃんひささんの映画レビュー(感想・評価)
日本アニメーション史上のエポックメイキング
劇場で観るのは、初公開時に名画座(二番館)で観て以来・・・35年以上にもなるわけですね。
「火の7日間」と呼ばれる大規模戦争で大半の文明が壊滅してから1000年。
腐海と呼ばれる、有毒な瘴気を発する菌類がつくる森に世界は覆われ、また、地上は巨大な昆虫群に征服され、人類は細々と生活を続けていた。
ナウシカが暮らす「風の谷」は、ふたつの大国トルメキアとペジテに挟まれた小さな国。
それは国というより、村というのに近い。
そんなある日、トルメキアの航空輸送船が「風の谷」に墜落。
輸送船は、「火の7日間」の原因をつくった生物兵器・巨神兵の幼体を運んでいたのだった・・・
といったところからはじまる物語は、初公開当時、かなり斬新で理解しづらいものだったが、環境意識が高まった現在では、かなりわかりやすくなっています。
それにしても、驚くのは、映画の中の登場人物は腐海の瘴気を避けるためにマスクを着用しているが、観客もまた、新型コロナウィルス対策でマスクを着けていることだ。
ま、それは置くとして、映画の設定は環境問題が根底にあるけれども、構図は以外にもヒッチコック映画そっくり。
ヒッチコック映画には、ふたつの特徴があり、ひとつは「巻き込まれ型サスペンス」、もうひとつは、物語を動かす要素としての「マクガフィン」である。
この映画における「マクガフィン」は最終兵器・生物兵器の「巨神兵」。
巨神兵をトルメキアが手に入れるのか、ペジテが手に入れるのか・・・というのが物語の基軸。
さらに主人公の「風の谷」のナウシカは、その巨神兵争奪戦で、両国の戦争に巻き込まれてしまう。
キリスト教的イメージ的があるので(衣装デザインに十字架がある)、ドイツとロシアに挟まれた東欧の小国といったところかもしれないが。
さらに念の入ったことに、「マクガフィンは映画の結末に影響を及ぼす必要がない」というルールまでも踏まえている。
(未成熟の巨神兵は虚しく崩れ落ちてしまい、風の谷に押し寄せる王蟲の大群を止めることができない)
そんなヒッチコック映画の構図を持ちながら、最終的には神話的な安らぎがもたらされるクライマックスは感動的で、衝撃的。
日本アニメーション史上のエポックメイキングに相応しい傑作だと改めて感じました。
なお、いちばん好きなシーンは、腐海の森の底深く、浄化された空気と土を見つけたナウシカが地面に横たわり涙を流すシーンです。