「エスケープ・フロム・実家」もらとりあむタマ子 浮遊きびなごさんの映画レビュー(感想・評価)
エスケープ・フロム・実家
大卒後に実家に帰省したタマ子が、就職せずに
実家でグウタラ生活を送りまくる様子を描くという
スリルとサスペンス満載のアドベンチャー超大作(大嘘)。
* * *
前田敦子演じるタマ子のグウタラな
生活感、特に食事シーンが良い。
ロールキャベツはぐはぐ、漬け物ぽりぽり、
お団子ぽぐぽぐ、アイスバーちゃむちゃむ、
これだけ撮影期間中に食べたら絶対太ると思うんだけど(笑)、
美味しそうなものをだらんとした服装でモクモク食べ続ける姿が
なんだかキュート。なおかつ生活感バリバリ。
寝っ転がってテレビ見ながらプッチンプリン(ビッグ)を
食べたりするシーンの壮絶なリアリティたるや(爆)。
ニュース見て「ダメだなぁ日本は」と呟いたり、
居間のこたつで夕方まで眠りこけてたり、
知り合いの中学生にカノジョができたのを街で見かけて
にまぁ~と笑いながら何度も振り返ったり。
近所のオッサンか、アンタは。
大きな笑いは無いけれど、思わずニヤリというか、
自分が休日ダラダラ過ごしている様子をそのまま
見せられているような苦笑いが満載でぼんやり楽しい。
* * *
そんな娘にヤキモキしつつ、娘に強く言い切れない
親父さん(演じたのは康すおん)の姿がもどかしい。
娘の将来は心配だけど、彼女が何になりたいのか
分からないし、あんまりプレッシャーを掛けすぎると
取り合ってもらえなくなるし。
最後の選択も含めて、優しい親父さんだったと思う。
* * *
とはいえ、タマ子もただグウタラしてる訳じゃない。
いっちょまえになっていく近所の中学生、
帰省してきた友人、父親の縁談バナシ。
それらに尻込みして見えるタマ子。
(いや、中学生はアゴで使ってるけど)
そりゃ、のほほん平和で変化の無い日常が続けば一番。
けど、ゆるやかなペースで、しかし確実に日常は変わっていく。
いつかは巣立たなきゃ生活していけなくなる。
んなこと人に言われなくてもタマ子は分かってるんである。
家族に迷惑を掛けてることなんて百も承知だ。
そして、それを申し訳なく思ってもいる。
* * *
僕の親戚や友人にも同じような生活をしているのがいるが、
『周りは前に進んでるのに自分だけ“生き遅れ”てる。
そのくせ、どう動けばいいかがイマイチ分からない』
というもどかしさや劣等感みたいなものが
彼らからも伝わってくる気がする。
(彼らの場合は仕事を辞めてからなので
タマ子の場合より根が深い訳だが)
今って、仕事へのモチベーションは保ちづらいし
社会に出ていくのが怖い時代だと思う。
頑張って仕事してもあっさりクビ切られたり
経済ニュースは将来が不安になることしか言わなかったり。
自分からなかなか動き出せない人だっていますよ、そりゃ。
自分を卑下する必要は無いし、焦らなくて良いから、
ちょっとずつちょっとずつ前に進めばいいんじゃない?
周りもあまりプレッシャーを掛けずにそう仕向けなくちゃ。
なんてことを、映画を観ながら感じた次第。
* * *
以上!
心をどかんと動かす映画ではないけれど、
のほほんとした空気を笑いつつ、
ちょっとだけ前向きになれる映画。
ところであの中学生くんのセリフ。
「オレ、恋に部活に忙しいんだよね」というヤツ。
こっちまで頭ひっぱたきたくなった(笑)。
〈2014.02.16鑑賞〉
返信ありがとうございます。
>エスケープ・フロム・実家
実はこのタイトルがE・フロムの「自由からの逃走」
「Escape from Freedom」をもじったものだと思ってました。
あ、でも本当は「能ある鷹は爪を隠す」なんでしょう?(笑)
Gokiです。お久しぶりです。
なんとも懐かしい響きの「もらとりあむ」に釣られて出て来ました。
もうとっくに死語になってるものと思ってましたが。
なぜかネガティブなことを先駆けてしまう私は、
大学時代に「ウツ」になり(当時の診断名は「心因反応」)
なんだコレはと自問して見つけたのが、
小此木啓吾の「モラトリアム人間の時代」でした。
親の言うことを聞いて「森田療法」も試しましたが、
ナントカ神経症ではなかったので一ヶ月も続かず、
結局、慶応付属病院まで小此木啓吾に会いに行きましたもんね。
でも半年待ちだと言われ、彼の一番弟子にお世話になることに。
その方も今では日本臨床心理士会の理事におなりでして。
同時にその頃は難解な映画を見まくってました。
もちろん本も、エーリッヒ・フロムも読みましたよ。
今から思うと丁度その頃が自分にとっての「もらとりあむ」だったのかなと。
今の日本には形骸化した「成人式」があるだけで、
「元服」のような実のあるイニシエーションはありませんね。
そう言えば、余談ですが「47浪人」で主税が切腹を免れるのは、
マイナーを殺しちゃうと18禁になっちゃうからでしょうかねぇ。
それでなくてもアレでPG-13ってのも凄いと思いますが。
永田町見ても、どこに「大人」がいるんだろうと思ってしまうので、
日本人にとって「モラトリアム」の意義は何なんでしょうね。
あ、映画を見てもいないのに失礼しました。