大統領の執事の涙のレビュー・感想・評価
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差別と対立と和解。
これを観ておいて良かった、と素直に感じられる佳作。
いわゆるアメリカの暗部である負の歴史を、大仰に語らずに
訥々と説明してくれるような作品である。
人種差別や公民権運動に関する作品は数多く公開されるが、
まさに歴史の立役者のすぐ傍にいた存在でありながら、
空気のように生きた人物が、静かに戦いを挑む姿が印象的。
F・ウィテカーは実在のセシルになりきり、見事に演じている。
で、夫が夫なら妻の方もかなり印象的。
何かというと名前が出てくるアチラでは大人気の司会者、
O・ウィンフリー。映画で観るのは久々な気がするんだけど、
さすがの大貫録。夫と息子の対立の間で苦しむ妻を演じきる。
綿花畑で働く息子から、ハウスニガー、ホテルのボーイを経て
大統領の執事に大抜擢されたセシル。生い立ちだけでも凄い
物語なのだが、なぜ彼がそういう職を得ることが出来たのかは
彼の存在感とその仕事ぶりに伺える。幼い頃はそんな父を自慢
できた息子も、公民権運動に身を投じるようになってから恥じて、
やがて家庭内は不穏な雰囲気に包まれる。生きていくためには
職を失う訳にはいかない。父には父の、息子には息子の葛藤が
あるのだが、それを見守る母親の苦悩も並大抵ではない。
もうひとりの息子を戦争で失い、やがてボロボロになっていく
この一家の再生に向けて、セシルはどんな風に生きていくのか。
彼が執事に上り詰めるまでの一幕と、公民権運動に揺れるニ幕、
といった二部構成で、時代の流れが非常に分かり易い。
冒頭から中盤まではコミカルなシーンも多く、彼らが(白人の元で)
豊かに暮らしていた様子が分かり、人権問題が中心になる後半は、
父の静と息子の動が対立し、別の立場からの戦いとして描かれる。
そしてそんな時代に絡む大統領役に名俳優たちがズラリと並ぶ。
彼らのなりきり振りとその時代背景に笑って泣けてとても楽しめる。
セシルが黒人収容所跡地で呟いた台詞が特に印象的。
「この国はいつもそうだ。よその国のことはあれやこれやと言うのに。」
(やはり最愛なるものは家族。仕事も運動も全てはその為なのだから)
感動。アメリカの公民権運動の歴史
ユージン・アレンと言う8代の大統領に使えた実在の執事の人生を元に描いた、1950年代から1980年代のアメリカの戦後史。
物語の始まりは、1920年代のアメリカ南部から始まるのですが、まだまだ黒人差別が有る時代が描かれています。ネタバレになってしまいますが、いきなり、セシルの父が撃たれてしまうシーンは、当時のアメリカ南部を象徴しています。でも、それが普通であったという事も驚きですが。そういう意味では、歴史を描いているので、実際の出来事も劇中でたくさん描かれていますし、今では差別用語とみなされ、使われなくなった『ニグロ』と言う言葉が、作品中で普通に使われています。(今では、アフリカン・アメリカン/アフリカ系アメリカ人と言わないとダメ。)
歴史を描いているし、歴代大統領に使えた執事を描いているので、歴代大統領が画面に登場するんですが、これが・・・似ていない(苦笑)。まぁ、セシルが主人公なので、脇役はどうもでいいのかもしれませんが、ちょっと気になりましたね。それと、日本的には非常に注目される人物のキャロライン・ケネディですが、幼少のキャロライン・ケネディも劇中少しだけ出てきています。
いやぁ、日本人には判りにくいかもしれない人種差別の問題を、上手く描いていますね。非常に判りやすいです。「白人用」「有色人種用」とくっきりと様々なものが分けられているのを見るのは衝撃的です。それが、戦後も続き、つい先ごろまで継続されていた(あるいは、未だに継続されているのかもしれませんが)のですからねぇ。
いやぁ、中々感動的。非常に深い内容です。
暗く深く長い歴史とどの親子にも訪れる歴史との交錯
今では終わったと思われる…というよりも、自分が生まれた時には少なからず過去の歴史と思っていたアメリカの暗黒史…だって、自分の思春期にはマイケルジョーダンやカールルイス、ホイットニーヒューストンとか、自分に影響を与えるアメリカ人は全て黒人だったから…近年まで暗黒の歴史が続いていたことにまずびっくりしました。
その暗黒の歴史を一部始終体験した7人の大統領に仕えたセシル。
本当に激動の歴史の中で、その歴史の渦中にいたこと、そしてだからこそ起こり得たことにびっくりしました。
話にこそ聞いたことのあるアメリカの暗黒史…ジョンFケネディーの公民権法からの暗殺やKKKの暗躍、ニクソンの人権政策の失敗、マーティールーサーキングJrの活動と暗殺…全ては黒人の人権を得る過程に起きた事件…。文字面では聞いたことはあるものの、映像化されたこと、そして、それを時系列に連続に並べて、当事者で有ること前提にした時に、その歴史の辛さと長さを本当に実感して、辟易としました。また、それはバラクオバマの誕生まで続いていたこと…つい最近まで続いていたことを知るに本当に疲れた…。
物語はセシルの母親が凌辱され、それに怒りを示した父親が殺される、それも、黒人の従属のわかりやすい代名詞である綿花畑でおこるところから始まる。
セシルは、一人で生き抜くことを決め、綿花畑を出てワシントンに向かい、その途中でホテルのショーウィンドーのケーキに衝動的に手をだし、そのホテルの執事に捕まってしまう。それがきっかけでその執事の指導を受けて、自らも執事になり、その実務が認められホワイトハウスの執事に。
セシルはアイゼンハワーからレーガンまでの7人の大統領に使え、特に人権運動が活発化してきたケネディ当たりには、黒人のを解放する白人大統領の姿を頼もしく思いながら、その白人に人種の差をなく仕える自らの姿を誇りに思ったこともあったのでしょう。
その中で、息子は自分の我慢を重ねながらホワイトハウスに仕えている姿を快く思わず、よりストレートに黒人の解放を求めるため、フリーダムライダースに参加したり、ブラックパンサー党に参加したりして、逮捕と身の危険を重ねていく。
お互い、人種解放を思いながら考え方とアプローチの手法が違いすぎて、乖離が生じ、末には絶縁状態になってしまう。
そんな中弟は国のために戦争にでて帰らない人に…。
息子の過激な活動を認めず、自らのたえながら地位を築いてきた行動を誇りに思っていたセシルだが、レーガン夫妻のパーティーに呼ばれ、仲間の黒人の執事が給仕する姿を見て、違和感を覚えるとともに、息子の活動を英雄視する書籍を見て、自分のしてきたことに疑問を感じ始め…。
時代によって価値観はかわるものだけど、その価値観はたぶん、相当の理解がないと認められないのでしょうね。この親子がまさしくそれで、世代の差、自分たちの置かれている環境に対してのアプローチの仕方の差をお互い認めることができず、確執を続ける姿は、どの親子にもある姿ですよね。そして、その姿はこの暗黒の歴史の中心だからこそより強いものになってしまう。
セシルにとって皮肉なのは、最初の白人の理解者だったケネディが暗殺され、自分たちの先導者だったキング牧師も暗殺され、息子は自らが認めない過激な運動に手を染め、国と戦い、下の息子は国のために戦い死んでしまう…。セシルの思いはことごとく裏切られ…と思ってしまいますよね。ただ、それも、件の最後のところで、自らの見識の狭さに気付き…。
という、アメリカの人種差別の歴史の長く暗黒な話と、親子の確執を描いた映画ではありますが、何となく、強く長い暗黒の歴史に「人」がいたということを改めて思うと、より切なさがますな…と思いました。
黒人のことを、デモ運動や暴動を見て初めて理解したケネディや、黒人を迫害し続けた綿花牧場の主の男。セシルに何かを見出したその牧場の主の母親、セシルの奥さんや息子たち…。大統領ですら人で、全ての人がその暗黒の歴史の中で自分の置かれている環境に甘んじ、抗い生きてきた、そして理不尽に失われた命もあった…ということを思うと、懸命に生きることの大切さと強さを思わされるし、親子の確執が溶ける最後のシーンは懸命にお互い生きた親子だからこそ、違う生き方をしながらも分かり合えたと思えます。
最後にホワイトハウスに招かれたセシルがケネディのネクタイをつけ、形見の懐中時計を持ち、いつかの大統領(ど忘れです…)にもらったピンタイをつけて、堂々とホワイトハウスを訪れる姿…懸命に生きた人間の尊厳を感じさせる佇まいがとても感動しました。
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