「差別社会で生きた親子の葛藤」大統領の執事の涙 タビさんの映画レビュー(感想・評価)
差別社会で生きた親子の葛藤
アメリカの歴史を黒人社会から見ることができる映画。子供時代に白人の下で、彼らの匙加減で、いつ殺されるかわからない中怯えながら奴隷として働かされ、ほんのわずかな幸運から、人生を掴み取り、大統領の執事にまで昇りつめる一人の黒人セシル。南部時代の恐怖を味わったセシルが、<白人に見せる顔>の仮面を武器として、平和的抵抗を選択することは当然のことだっただろう。また、白人に大人しく仕える父を見て疑問をもち、白人の黒人差別に強い反発心が心で育った息子のルイスがいる。彼がここまで自分の考えをもち、熱い思いを実行してこられたのも、父親が息子に教育を受けさせ、ある程度の生活を用意してやれたからだろう。父親と息子の中で、一方では内部からの平和的抵抗、一方では過激な命をかけた抵抗が、見事に対比され、描かれている。時代は下り、ついに大統領の地位を黒人が勝ち取るまでになる。親子は、やり方は違えどどちらも黒人社会を変える為に闘い続けてきた戦士なのであった。
映画としては、アメリカにおける黒人社会の変革というより、その中で生きてきた個人の生き方の描かれ方が素晴らしいのだと思う。
こんなに酷い扱いを受けていたのは、たったの半世紀前に過ぎないのだから、そりゃあ現代になっても差別意識は簡単には無くならないだろうなと思った。彼らは彼らの強さの為に、また美しさの為に、能力の為に、白人から恐れられ嫌悪され、一度は上になった立場から抜け出さない人間から差別され続けられるのだと、私は思っている。<いじめ>も構造は同じだろうに、呼び方の為にこどもの単なる愚行のように思える。立場が上であると勘違いし、<下の者>を虐げる人間は、いなくならないだろうが、子供の頃の教育によってある程度変えることは可能だろう。黒人社会を受容する形に変わってきた白人たちがいるように。
しかし本当に差別とは吐き気がする程恐ろしいものだと思う。白人黒人だけではなく、全世界にある差別。道路で平然とスピーカーを使用してヘイトスピーチをする日本。黒人が無抵抗で撃たれる現代のアメリカ。コーランを燃やす。或いは国旗も燃やす。今日本にいる日本人の私は、自国に存在している差別に辟易している。そして、日本人として謝りたい気持ちでいっぱいだ。