「等身大の瞳から観る"本当のアメリカ"」大統領の執事の涙 pullusさんの映画レビュー(感想・評価)
等身大の瞳から観る"本当のアメリカ"
7人の大統領に使えた黒人執事、セシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー)の実話を描いたストーリー。
「すぐ目の前で世界が動いていた」というキャッチフレーズの通り、彼は世界の中心であるホワイトハウスに仕えていた。しかし、ホワイトハウスに"本当のアメリカ"など存在しない。
セシルが本当にみつめていたものは、"黒人としての定め"を受け入れた自分自身の人生だった。黒人に生まれ、「ハウス・ニガー」として生きてきたセシル。父親を殺され、首をくくる黒人を見つめ、ホワイトハウスの執事として誇りをもちながら、革命運動をするわが子を勘当する。この物語には彼にしか見えない"本当のアメリカ"が描かれているのだ。
物語は、中盤からセシルの子供・ルイスにもフォーカスを当てている。大学で革命運動を始めたルイスと、ホワイトハウスに仕える父・セシル。二人は同じアメリカに暮らしながら、全く別の道を歩んでいくのだ。さまざまな想いが渦巻くアメリカの現状を、この物語は見事に書き出している。
話の中で、この映画を象徴する台詞がある。それは、セシルの妻・グロリアの台詞だ。セシルから告げられたケネディ大統領が暗殺事件を受け、彼女は一言、「そんなこと、知ったこっちゃない」と吐き捨てる。夫と子供が互いの道を進んでしまったせいで、崩壊しかけた家族を見つめていた彼女の叫びだった。家でひとり、家族を見守っていた彼女にとっては、大統領が殺されようが、差別問題に革命を起こそうがそんなことは「知ったこっちゃない」のだ。ただ、ばらばらになってしまう家族をどうにか食い止めたかったに違いない。
彼らの家族が国の崩壊を象徴しているようであった。
黒人差別問題、ケネディ大統領の暗殺、KKK、そしてオバマ大統領の就任。アメリカが大きく動いていた時代を、等身大の彼の目を通して見事に描ききった映画史に残る傑作である。