「世界の小津作品に並ぶ力作であり、星は10個でも良い程の作品だ」大統領の執事の涙 Ryuu topiann(リュウとぴあん)さんの映画レビュー(感想・評価)
世界の小津作品に並ぶ力作であり、星は10個でも良い程の作品だ
この作品をアメリカ社会の人種差別を描いた作品として、観てはいけない!
小津安二郎監督の描く作品が、単なる日本の一家庭を描いただけの作品ではない、その事は、もう世界中の映画人が認めている事だ。
それと同様にこの作品を、アメリカ社会だけの負の遺産の問題として観てしまったのなら、この映画の本当の価値、良さを半分も知る事は出来ない。
この作品の主人公セシルは、確かにアメリカ南部出身の黒人だ。そして本作は、或る意味における彼の生涯を描いたサクセスストーリーと捉える事も場合によっては出来るだろう。
しかし、ここに描かれている、テーマこそは、人間の普遍的なテーマであり、それがしっかりと、作品の深く根底に描かれた立派な映画だと言って良い作品なのだ。
正に、これぞ映画と呼ぶに相応しい名作なのだ。
人間誰しも、その生涯に於いては、克服しなくてはならない課題や、人生の役割、そしてその生涯で果たさなくてはならない、役目や、生きる目的などの、人生のテーマを持ってこの世に生を受けている筈で有る。
何も有名人など、特別な存在の人間に限った事では決してない。人が誕生し、死を迎える迄のその長い月日の中で、他人や、物との出会いが必ず有り、その縁の中で、如何に人として自己の周りの人々及び、事物に関わりを持って生きるべきか?と言う人間の誕生の根本を問うている素晴らしい作品で有った。
これぞ、映画、主人公と仕事を描いた作品で有り、そして家族の在り方、夫婦そして親子の問題を描いた作品で有り、そして差別、蔑視等の社会的な問題を問う作品である。
最近配給されている外国映画は、単なる娯楽作品が非常に多く、この作品のような深いテーマを真摯に描き出したヒューマン映画は非常に少ない事実は、映画ファンとして本当に残念でならない。
私が行った試写会会場に本作の監督が登壇し、作品の裏話を披露してくれていたが、この作品の企画を持って、大手映画製作会社を廻っても、映画化を許可する会社は無く、ネットで、協賛企業や、一般人の製作協力者を募り、製作資金を調達し、出来上がった作品なので、米国映画作品としては、非常に低予算の製作作品だと言う事を話して下さった。
しかし、映画が完成して公開されると、3週連続興行成績1位を記録したと言う。これはやはり映画会社が、保守的であり、長年のアメリカ国内の経済不況に因り、映画製作にかなりの制限が有る為であると思う。そして同時に映画産業の大手のトップの人達が、大衆の本当の求めている作品を分からずにいる要因も有り、更に言うなら、映画界に於いて映画製作の過程で、保守的で、差別的な製作方針が有る事が、このような立派な作品を産み出す事を困難な状況にしている要因だと思う。
何度も言うが、本作は単なる一人の執事と言う職業の人間の出世を描いただけの作品ではない!
これは、アメリカ社会に於ける、人種差別と言う闇を描いているが、同時に人間の心に巣食う差別や、優越、欲望や、希望、人生の目的、役割、職務そして、社会と自己の関わり、
個人と国家との関わり等を問う超一級の社会派ドラマで有ります。
是非、この映画の素晴らしさを、劇場でしっかりと、じっくりと御堪能頂きたいと思います!