「人生と記憶をめぐる24時間」コーヒーをめぐる冒険 arakazuさんの映画レビュー(感想・評価)
人生と記憶をめぐる24時間
“コーヒーをめぐる冒険”は、現代のベルリンに生きる人々の人生に出会う旅である。
夫婦関係に悩む男、
売れない俳優の親友マッツェの意外な過去、
太っていた過去から立ち直れない同級生、
祖母と暮らすドラッグ・ディーラーの少年…。
そして同時に、ニコ自身が今まできちんと向き合ってこなかったこと(違和感を感じながらもズルズル付き合ってきた恋人との関係、取り上げられた運転免許、隠していた大学中退etc…)のツケが回ってくる旅でもある。
そして、深夜になって辿り着いたバーで絡んできた老人から、
彼は重い遺言を託されることになる。
老人がニコに語ったのは、
1938年、ユダヤ人に対する弾圧激化のきっかけともなった「クリスタル・ナハト」(水晶の夜)の記憶。
少年だった老人は、夜中父親に起こされ通りへ出ると、石を手に握らされ
「お前の底力を見せてみろ」と言われる。
自分も石を握った父親は商店(おそらくは、ユダヤ人が経営する)の窓に向かって石を投げた。
二人が出会ったバーは、まさにその場所だった。
通りを埋めるガラスの破片を見て彼は泣き出した。
もう、自転車で通りを走れないと。
まだ子どもだったにせよ、何もわかっていなかった自分に対し罪悪感を抱え、
老人は70年以上生きてきたのだ。
夜明けのベルリンの街が美しく目に映る。
でも同時に、どうしてもここで過去に起きたことを考えずにはいられない。
夜が明けて、ようやく一杯のコーヒーに辿り着いたニコ。
重い遺言を受け取ったニコは何を思い、
何処へ行くのだろうか?
モノクロの映像と、時に軽快、時に気だるく全編を彩るジャズはウッディ・アレンを、
冒頭登場するニコの恋人のルックスはゴダールの『勝手にしやがれ』のジーン・セバーグを、
街を彷徨う青年はジャームッシュの『パーマネント・バケーション』を思わせる。
でも、この作品が評価されたのは、
街の記憶、人の記憶、過去と向き合うその視点だったように思う。