フォックスキャッチャーのレビュー・感想・評価
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「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」を観たら、こっちも観てね
まず、配給会社に拍手。
この映画、ごく一部の人間には今年度最大の話題作である「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」と同時期に公開だなんて、よくやったものだ。
アメリカ3大財閥のデュポン家の御曹司、ジョン・デュポンの事件を得映画化。ネタは割れているが、ネタを知らずに鑑賞。
その前に「フィフティ・」を観ていたのだが、とにかく、よく似ている。
チャニング・テイタムの金メダリスト・レスラーは3年前に金メダルをとっても、クソガキ相手の20ドルの講演で、車の中でジャンクフードを食べるなど、不遇の生活を送っている。
アメリカではレスリングは伝統ある競技だが、オリンピックにおける金メダルの地位は、優遇されているとは言えない。それでもこつこつと次の大会へと準備をしている。最初の30分は音楽が流れず、ただただ、テイタムをカメラは舐め回す。
この映画、とにかく、静かに、黙々と、ねっちょりと、テイタムとその兄ラファロとのまぐ、じゃなかった、レッスルを描く。
この二人のカラダがスゴイ。テイタムは脱ぐ映画が多いだが、今回は頭が悪い(いつもか)筋肉バカの説得力がすごい。そして、ラファロもコーチ体型がすごい。CGじゃないのか、と思うほど。
そしてこの二人に熱視線を送るのが、カレル演じるデュポン。このデュポンが、まずテイタムに近づくのだが、静かな展開と、カレルの言葉少なな、ねっとりしたしゃべり方のせいで、いつ鞭を繰り出すのか、どきどきして1時間は緊張しっぱなしである。
このデュポン。アメリカでは当然有名人なので、この人物については、ある程度、知っている前提で描かれるので、日本人にとっては、よりミステリアスに見える。たまーにおかしな行動をするが、演出は極めて静かな狂気、として描く。この男、財をはたいて、レスリング練習場をつくり、テイタムを囲うのだ。
テイタムとのヘリでの、早口言葉の言葉攻めが楽しい。この言葉攻め、結局本番は描かれない。
途中の優勝祝賀会には、ボウイの「FAME」。
・・・・狙い過ぎである。
対するラファロも負けじと、テイタムとその後も絡む、絡む。テイタムは、カレルがラファロのことが好きすぎるために、ジェラシー込々でやけ食いしたりと、もうヤリ放題。
おまけに汚物プレイのおまけつきである。
見せ場のオンパレードの2時間強。面白い
追記
皆さんにはどうでもいいことだが、オレにその気はない。悪しからず。
男たちの愛憎劇。
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デフォックスキャッチャーという財閥が経営するレスリングチームの副コーチをその社長デュポンが殺害した実際の事件の話。
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なので、被害者と加害者がメインの話かと思えば被害者の弟がメインで話が進む。私この事件全く知らなくて、途中気になりすぎて事件を調べたらえ!?兄が死ぬの!?なんで!?どうして?っていうミステリーとして見れたので結構面白かった(笑).
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弟のマークはオリンピックで金メダルを取ったものいつも兄の影に隠れてかつメダリストとは思えない地味な生活を送ってる。両親のいないマークは父ように接してくれるデュポンに依存する。
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デュポンも毒親の母を持ち、執着をしている。おそらく「アメリカ的な強い男」になって母親に認められたかったデュポンも、マークの父のように接することで自分の欲を満たしてた。(性的なこともしてたっぽい?)
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マークの兄デイブは、デュポンがなりたかった理想でそれが叶わないと知った時、自らその理想を破壊する。とんでもない愛憎劇でしたね(笑).
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ネトフリのドキュメンタリーで劇中にもでてきたテレビの取材場面が、実際の映像で見れるんだけどデイブとデュポンはめちゃくちゃ仲良さげ。この映画では全く真逆に映っていて、やっぱテレビって見せたいように見せる、1部を切り取っただけ、なんだなと。それは映画にも言えること。
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『マネーボール』の監督なので、スポーツ映画だけどくらーいテンポで良かったです。
何者にも成れなかったデュポン
スティーブカレルがニコリともしないのが、精神的に大丈夫じゃない感じを醸し出してます。チャニングティタムも、ほぼ眉間に皺寄せて暗い。お兄さんを頼らずとも、できる自分!を実現できない歯がゆさ。マークラファロは、似てる俳優さんと思ったほど、この役に成りきっていた。事実とは衝撃的。
暗雲とした雰囲気
季節で言えば冬。
終始陰湿な雰囲気が漂っていて良い。
デュポンが気持ち悪すぎるところと、
周囲に認められなかった弟が
デュポンに惹かれていく様子がよくわかった。
デュポンも弟も、他者に認められたいという欲求が強いんだな。
と、実話ということで、
かなりの恐怖を感じたのだけど、
事実とは随分違うようで…
本人からしたら、とんでもない話のようで。
実話を元にしたフィクション、のようだ。
終始ヤバイ雰囲気
評判がよかったので観ました。ラストのデュポンが車の窓を開けるシーンが恐怖でした。前半から、ちょいちょいこの人ヤバイだろ(笑)というシーンが(自作のPV的なビデオや本を見せる辺り)重苦しい雰囲気と怖さがあって、笑えませんでした…。
結局、お金では手に入らないものがデュポンは一番欲しかったのかと考えさせられました。ただ、それで簡単に殺しちゃうのはやっぱり恐ろしい((((;゜Д゜)))
結論:3人とも凄い演技
40歳の童貞男の続編
「フォックスキャッチャー」見ました。最高でした。傑作との評価は聞いていたが、ここまで凄まじいとは思わなかったし、劇場で観なかったことを本当に後悔させる。
ストーリーに新鮮さは特になし。だって知ってますしね、結末等々は。ただそれは、長回しだったり、無音表現だったりといった演出でカバーできてる。言わば徹底した雰囲気作りがハマった。場面場面で笑えるやり取りがあったりするけど、それを許さない重い空気がある。非常に強かったです。
あとやっぱりこれが1番だと思うんですけど、スティーブカレルの演技が気持ち悪くて素晴らしいです。全部見てるわけじゃないけど、カレル史上屈指でしょう。気持ち悪さの象徴は特殊メイクを駆使した顔面蒼白と無表情だと思うけど、彼は常に顎を上げてモノを見てるんです。その時の彼の心情は正確には汲み取れないけど、恐らくは他社の事を理解しようと遠くを見るような目で顎を上げて、対象を見つめてるのだと感じました。なぜそう思ったかと言うと、彼自身、自分が変わり者だと少なからず理解してるんだなとおもったからです。例えば、スティーブカレルが警官と射撃場で射撃練習をしてると、ジョギングで通りかかったチームが「あんた最高だぜ!」バリの事を言うと、無反応無表情に顎を上げた不思議そうな目でジーッと見つめるんです。その次のシーンで道場に現れて「ちゃんと練習しなさい!」って場面はあるけど、真意はそうじゃないだろうなって思わせる辺りが本当に不穏だし、なによりゾクッと怖い。
話自体は全く違うけど、なんとなく「アメリカンスナイパー」を連想させる。全体のテンションは低いけどなんか息苦しく感じる作品の雰囲気は、映画館で体感したかったと後悔。プンプンです。
総じて傑作です。2015年に劇場で見ていたら、間違いなくベスト3には入ったであろう。
愛情は憎しみとなり
1996年に起きた大財閥の御曹司によるレスリングのオリンピック金メダリスト射殺事件の映画化。
アカデミー賞では作品賞候補は逃したものの5部門ノミネート、カンヌ国際映画祭監督賞受賞の力作。
実はレンタルで見たのは3ヶ月も前。
なかなかレビューがまとまらず、いったんはレビューは諦めたが、でもせっかく見たので(なかなか見応えあって思ってた以上に気に入ったし)、今更になっての簡易レビュー。
スティーヴ・カレル、チャニング・テイタム、マーク・ラファロ、メイン3人の演技が素晴らしいの一言に尽きる。
特にカレル!
コメディのイメージが強い彼の一切の笑いを封印したシリアス演技は病的なまでに不気味で、見てるこっちが冷や冷やするほど。恐ろしさと共にその佇まいには哀しさも漂う。
チャニング・テイタムも単なるマッチョメンでない事を証明し、マーク・ラファロは言うまでもなく演技巧者。
暗く静かで淡々とし、派手な見せ場や劇的な出来事は皆無。人によっては退屈に感じるかもしれない。
が、無駄な要素はとことん削ぎ落とし、緊張感は終始途切れる事無く、登場人物の心理描写を深くえぐり出したベネット・ミラーの演出は賞賛モノ。
オスカー監督賞ノミネートはサプライズと言われたが、妥当。
レビューがまとまらなかった最大の要因は、登場人物の複雑な心理描写。
あの場面でこの場面で、あの時この時、何を思ったのか、何を思っての行動だったのか、その時の感情や真相心理は…?
また考えるだけで頭の中が堂々巡りしそう。
なので、なるべく簡潔に感じた事を自分なりに…
妄想型精神分裂病を患っていたジョン・デュポン。
もし患っていなかったら、面倒見が良く、話も分かる、レスリングを愛し、そしてお金も持っている理想的なパトロンだったろう。
彼がいつ病を患ったかの経緯は描かれないが、原因は察しがつく。
母親に愛されたい、認められたいの一心。
その過剰なプレッシャーが、ある日何処かで、デュポンの心を狂わせた。
デュポンとマークは通じるものがある。
孤独やプレッシャーを抱え、愛に餓えている。
と同時に、決定的な違いもある。
空虚な心を受け止めてくれる器、つまり相手。
マークは兄デイヴに引け目を感じる事など微塵も無かったのだ。
最も苦しい時、辛い時、傍に居て支えてくれたのが兄。
デュポンには受け止めてくれる器が居なかった。
マークは自分と同じと思っていた。
だから自分の支配下に置けるとも思っていた。
なのに…
あいつは違った。
あいつは裏切った。
孤独なのは自分一人だけだった。
たくさん目をかけてやった愛情は憎しみとなり。
憎しみの矛先は器へ向けられ、壊す。
人の心の闇、愛憎は、深く複雑で、重く。
簡潔にまとめようと思っていたのに、結局長々と(>_<)
才能と権力の不協和音
ブルーレイ、吹き替えで視聴。
とにかくデュポンの一挙手一投足が怖くてしょうがない。常にピアノ線が張っているような緊張感を持っており、なにをしだすか本当に分らない。そこに違和感を感じながらもついていく主人公。その異常性には付き合わない善良で充実した人生を送っている主人公の兄。
デュポンのシーンを冷や冷やしあがら見てると本当に疲れるが、最後にずしーんとくるものがある。
デュポンが装甲車みたいなもの買っていたがあとで全く描写されずなんだったのかと思ったが、おまけの未公開シーンでそれを走らせて池にドッボーンさせるだけだったのは本当に怖かった・・・。
ねじれた承認欲求
見逃していたフォックスキャッチャーが、京都シネマ名画リレーでやるということで、寝不足と季節外れの風邪をおして見に行ってきました。上映から半年足らずなのに会員500円!の素敵企画なのです。
上映中、多少咳き込んでしまって周りの方には申し訳なく思っています……
さて、予告を見ていた限りでは、ガチムチおじさんの組んず解れつは食指が動きませんでしたが、抑えた演出での心理描写が秀逸との評を目にするにつれ、興味がわくも、時期すでに遅しだった本作。
寝不足と季節外れの風邪が、鑑賞を阻害するかと思いきや、言葉少なく写実的に見せる画面に釘付けとなり、眠気も忘れる2時間強でした。
チャニングテイタムは初めて見るのであれですが、スティーヴカレルとマークラファロが、彼らに見えないですね。中の人の個性がわかんない化けっぷり。
特に私はマークラファロがフェロモンを完全に抑えていてびっくりしました。
弟くんは弱いですね。デイヴに依存していることがどうしても心地いいのか、反抗してみるものの最後には擦りよってしまう。兄がそうなるように図らずも仕組んだとも言えるのかもですけれども。
ソウル五輪の選考会時の荒れっぷりがまぁすごい。5キロも一気に食って出せるもんかね?
レスリングの軽量は本当に素っ裸でやるんですね。あれ女子もなんでしょうか?
ジョンデュポンは母との間に何やら葛藤があるらしく、おそらくマークの中に自らを見ていたように思われます。
それだけではないようだけど。
馬への嫌悪、突飛な行動、マークと親密になったかと思えば(クスリ仲間て…やめてよ)突然ビンタして酷いことを言う。そのセリフはおそらくかつてジョン本人が母に言われたことではないかと思ったり。
ジョンの歪みは母に認められたいというものだと思います。しかし叶わないまま、母死にました。
ドキュメンタリーの撮影でデイヴは上手くジョンへの尊敬を演じられません。だって良いスポンサーで雇い主だけど、競技は素人レベルだし、マークを荒れされるし、尊敬なんて全くしていないわけで。でもビジネスとして苦々しい顔で尊敬を口にします。
出来上がったドキュメンタリーを見て、ジョンはデイヴを銃殺しに行ったようですが、ドキュメンタリー内で、デイヴの発言が入ってなかったのでしょうか?それとも映し出されたデイヴから自分への畏怖が見受けられなかったことに憤慨したのでしょうか?
いずれにしても理解できるはずもありませんが。
映画を観終わってから、いくつかの記事を読みますと、そこにはこの映画の出来事や描かれ方は、史実と違うことも多く、実際のマークシュルツさんから見たらいい迷惑だ、ということが書かれていました。
まぁ、事実をベースにしたフィクションですからね。そこは伝記としてではなく、フィクションとして受け止めたいと思います。
哀しくて美しい
リア充に憧れ、そうなりたくてもなれない非リア充の話だった。お金があっても必ずしも自分の欲しいものが手に入る訳ではないんやね、当たり前やけど。
哀しくて美しい映画だった。
ダメ人間の哀歌
昔、伊集院光の深夜ラジオのコーナーにダメ人間というのがあって、例えるなら。
「婆ちゃんの財布から金を抜き取り、母にプレゼント……ダメ人間だもの」
という調子で自分のダメ人間ぶりを笑いで認め、癒しを得るコーナーだった。この映画でも二人のダメ人間が出てくる。一人はマーク。もう一人はデュポン。もっとも最初の方では二人とも(もしかしたらとは感じてはいるが)自分はダメ人間だとは思ってはいない。
マークは兄を超えたいと思い。
デュポンは母に認められたいと思う。
頑張ればそれが叶うと信じていた。
しかし二人の強い思いは挫折する。
マークは兄を超えられず。
デュポンは母に認められなかった。
結局はすべてはムダになった。そしてそこから二人の運命は変わってくる。マークは自分がダメ人間だと認めリタイヤして興行格闘技に身を落とすことができたが、デュポンにはそれができない。彼は大富豪だからだ。
富と名声をもちながら自分にはそれに相応しい“中身”がまったく無い。
デュポンは最後のドキュメンタリーを観てそれに気づく。そこには自分と同じであるマークが映っている。
だからこそ殺さねばならなかった。人望もあり実力もある“中身”がある人間をだ。そうする事でしか認められなかったのだ。殺された人間には不幸としかいいようがないが、仕方が無い。
だってダメ人間だもの。
狩って兜の緒を締めよ
実話が基の映画によくあるよう、描写が事実と異なる/異ならないで
海外では揉めているらしいが、取り敢えず映画の情報のみでレビュー。
雨に濡れて冷えた金属のようなこの手触り。静かだが、観続ける内に
冷や汗がじっとり滲んでくるような緊張感に満ちた作品だった。
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′84年L.A五輪金メダリスト、マーク・シュルツを演じたチャニング・テイタム。
彼の肉体と憮然とした表情はこの役にドンピシャ。
ひとり黙々と練習し、ぼろアパートの一室で黙々と飯を食う姿。
兄とのスパーリングが段々と熱を帯びていく様子。
偉大な兄の影から抜け出したい。兄の力を借りずとも
自分は強いのだと、世間に認めてもらいたい。
そんな彼の苛立ちが、セリフ無しでもひしひしと伝わる。
そんな彼に手を差し伸べる大富豪ジョン・デュポン。
演じるスティーヴ・カレルはさすがの主演男優賞ノミニー!
終止感じられる不穏で不安定な存在感。
拳銃を片手に練習場で立ち尽くす姿や、生気の失せた眼で
自身のドキュメンタリーをぼんやり眺める姿の不気味さ。
一方で、金で買われた試合に勝利して小躍りする姿や、
朝靄の中、野に放った馬たちを呆然と見つめる姿が憐れ。
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かたや兄の名声に隠れて世間から認められない男。
かたや厳格な母から『男』として認められない男。
そういえば二人とも、独立戦争の英雄ワシントンの
絵画を自宅に飾っていたことを思い出す。
独立戦争での弾薬供給で財を成したデュポン財閥。
ジョン・デュポンには『自分は祖国の勝利に貢献した
一族の男である』という誇りがあったのだろう。
だからこそ、『祖国に名声をもたらした英雄が、
置かれた境遇のために不当な扱いを受けている』
とマークに同情し、彼を選んだのだろう。
初め、2人が目指していたものは同じだった。
世界大会で優勝したマークとデュポンが固く抱き合ったあの時、
彼らを結び付けていたのは、互いへの敬意と感謝……
間違いなく友情と呼べるものだったと思う。
それなのに。
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名声を得た後こそ人は謙虚であり続けるべきである事を、
デュポンは学んでこれなかったのだろう。いや、そもそも
あんな母親の下では学ぶ術も無かったのだろうか?
国際大会での優勝が彼の財力無しにはあり得なかったのは
確かだが、彼はスポンサー以上の立場を求めてしまった。
自分は優秀な“狩人”であり、人生における指標となるべき
『男』なのだという誇大妄想にも似た想い。
きっとそれは母への当て付けだったのだろう。
自分はこんなにも強く、こんなにも人に慕われている。
それを認めないあなたの方が間違っているのだ、という、
そんな主張。
その奥底にあったのはきっと『母に認められたい』という願いだ。
だがそれは母の死と、マークの兄デイヴによって打ち砕かれた。
デュポンでは、どん底のマークを再起させられなかったから。
マークはデュポンではなく、デイヴに依存したから。
デイヴはただ愛する弟を救いたい一心だっただけだが、
デュポンからすれば彼はデイヴに真っ向から否定されたのだ。
自分が世間、そして母に認められるべき人格者であることを。
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彼の犯行動機は逆恨み以外の何でもない。身勝手極まりない。
マークを慢心させたのも、マークを先に裏切ったのも、デュポンの方だ。
テロップで示されるあの惨めな最期は因果応報だと思う。
だけど、それでも彼を哀れに思ってしまう。
世界大会でマークが優勝した後の、酔っ払ったデュポン。
金で買われた友人しか知らなかった彼は……
仲間から誉めてもらえることが素直に嬉しかったんだと思う。
“ビッグ・D”だなんて渾名で呼んでもらえることが
心底嬉しかったんだと思う。
それだけで王様のような気分になって、自分が英雄
であるかのように思い込んでしまったのだとしたら……
なんとも子供じみていて、やりきれない。
<2015.02.22鑑賞>
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余談:
シエナ・ミラーが兄デイヴの奥さん役で、
『アメリカン・スナイパー』に引き続きの内助の功。
……アカデミー作品賞ノミネート作品に2作も出演だと……!?
どちらの作品でも物語の邪魔をしない堅実な演技でした。
そういやチャニング・テイタムは『G.I.ジョー』で恋人役
だったよね。まさかこんなシリアスな映画で再共演とは。
もう2人ともあんなコミックキャラとはSAYONARAロボコップ。
……と思ったら次作『ジュピター』で耳トンガリ宇宙人を演じるテイタム……。
うん、まあ、なんだ、頑張れテイタム。
凍りつく。
観ている最中に背筋が凍りつくほど低体温になること間違いなし、
もはや実話を超えた戦慄に襲われてしまう素晴らしい完成度の作品。
デュポン財閥の御曹司J・デュポンが起こした金メダリスト殺害事件。
ソウルオリンピックといえば記憶に遠くない、まさかこんな事件が
起きていたとは…レスリングの地味さ(今作でも強調される)でみても、
素人には絡みと取っ組み合い(寝技多し)という感じで分かり辛いのが
難点のような気がするが、それがジョンの母親にも下品なスポーツと
いう印象を与えたのかもしれない。金メダルを手にしても生活は楽に
ならず、そこへ財閥御曹司からのスポンサーの申し出とくれば、二つ
返事で飛び付いても不思議ではない。弟がフォックスキャッチャーに
移り住んで以来、不穏な空気はさらに色を増す。実在したジョンと
いう人物も複雑ではあったようだが、多くのスポーツ振興面で尽力し
(有り余る金の寄付など)スポンサーとして貢献した人物だったらしい。
彼が殺害事件を起こした真の理由も定まらず(精神異常や炸裂)結局の
ところ誰もが信じられないという状況のまま逮捕、裁判、投獄される。
今作では弟マークとの関係に重きを置き描かれているが、そのことで
マーク本人がアカデミー賞ノミネート前にケチをつけたことでも有名
(のちに撤回)、実際に観てもジョンの行動は観客にも理解不能である。
子供のまま大人になった金持我儘の気質そのままに、何でも金に物を
いわせては他人を買収し誑し込む形でしか自身を吊り上げられない男。
特に母親から認められたかった(愛されたかった)部分が見てとれるが、
精神面ではマークも兄デイヴの擁護から独立したかった側面が強い。
S・カレルは童貞男から複製男への変貌を見事に遂げ、C・テイタムは
暗いボンクラ体質を見事に表現、不穏と狂気が全場面を支配している。
(あれ、S・ミラーがまた奥さん役?アカデミー賞奥さん専門女優か^^;)
圧倒的描写、圧倒的演技、圧倒的切なさ
鑑賞後、しばらく立ち上がれねくなるほどの圧倒的筆力。積み重ねあげられる伏線、静かに、だが確実に、丁寧すぎるほど丁寧に、積み上げられていくデュポンの静かな絶望。決して超えることはできない存在へのどうしようもない憧憬と背反する憎悪。兄が放つ光が眩しすぎる弟。全てを手に入れながら何一つ手に入れていない裸の王様。認められたい。何かを成し遂げた証が欲しい。焦りばかりが募っていく。なぜ、俺には誰もいないのか。絶望が折重なり、臨界点を迎えた時、文字通りトリガーが引かれる。緻密な描写を重ねた先に得られる圧倒的なリアリティ。超人としての、父親としての兄を殺したのは他でもない自分の分身だった。俺があいつで、あいつが俺で。
ゾッとした
何の情報も入れずに見に行ったら、スポーツドキュメント的な映画みたいな内容なのに、サスペンス調も重々しいトーンで、何の映画か本当に分からなかった。物語のポイントも示されないままで、それが次第にマークはコミュ障で、デュポンは悲しい空っぽの子供おじさんという輪郭が見えて来てから、なんていうか結末のとんでもない展開まで、悲しくて切ない恐ろしい映画だった。
デュポンは童貞じゃないかと思った。お母さん以外唯一触れる女性が、デイヴの奥さんで滅茶苦茶愛想が悪い。金で全てを手に入れようとするけど何も手に入らない、特にソウル五輪でマークをタオルで扇ぐ様子が悲しすぎる。お金で一応あそこにいられる事がすごい。
デュポンがなぜデイヴを殺したのか、露骨に自分を嫌悪するマークの方が殺されそうなものなのだが、実際彼を苛んでいたのはデイヴだったのだろう。メダリストであるというだけでなく人柄がよくて、家族を愛している、メダリスト以外の普通の部分こそがデュポンにとって最も欲しくて一生手に入れられないもので、自分に対しても敬意を払って普通に接してくれるところに耐えられなかったのだろう。
デュポンが岡田斗司夫さんに見えてしかたがなかった。岡田さんを苦しめるのは罵声や嘲笑ではなく、普通に成熟した人の普通の幸福なのかもしれない。
財力以外に孤独を埋める術を知らない男の暴発
観終わって、これが実話であることに今も驚いている。ジョン デュポンは、大富豪の元に生まれ、金で全てを解決しようとするが、財では手に入られないものを見せつ けられた男。それは 純粋な兄弟愛。母の捻れた愛(偏愛)で育ち、何かが 欠落してしまい、結局孤独であり自分の世界から抜け出せないでいる男デュポン を、スティーヴ・カレルが上手く演じていた。
ガチガチで息がつけないキツイ作品だが、物凄く面白い
なごみ、癒しのの要素ゼロ。ガチガチで息がつけないキツイ作品だが、物凄く面白い。ストーリーは実話に基づいているそうだ。いつでもどんな国でも、狂ったボンボンほど始末におえないヤツはいない。
ストーリーはシンプルで分かり易い。セリフよりも映像シーンで状況や心理を展開して行くが、流れや意図が掴めず戸惑ったりする作品ではない。試写会のオープニングトークで、静寂の中を映像で物語を語る手法について紹介していたが、確かにそういうシーンが印象的だった。
主人公は桁外れの大金持ちでマザコンのボンボン。愛国者気取りで、思い込みが強く、アメリカを象徴するような強いリーダーの強迫観念に取り憑かれている。
金と巨大な権力を使い、果たせなかった若い頃の夢の代償を追及するが、所詮はボンボンの壮大な我儘なので結実しない。強烈に憧れるリーダー像と、現実のショボい自分の姿のギャップに耐えかねて破滅へと向かう。
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