「「いろいろと背負っているものがあるからね」」銀の匙 Silver Spoon とみいじょんさんの映画レビュー(感想・評価)
「いろいろと背負っているものがあるからね」
高校生なりにも。
いただいたフライヤーに載っているキャッチコピーは「最強に理不尽な青春!!」
その背負っているものを背景に、高校生なりの夢と挫折、そのための努力・気持ちの切り替え・居場所を見つけるための落としどころ(適応能力が上がるというのは成長なのか)。相互扶助、そんな彼らと対する大人の態度。
心にグッとくる台詞・エピソードが散りばめられた漫画・映画です。『少年サンデー』連載中の2012マンガ大賞大賞他受賞作品の映画化です。
映画の出来としては突っ込みどころ有なので☆3つと言うところかな?
”背負っているもの”もライトに、淡々と(時にコメディチックに)描くから、深刻さは「大変だなあ」くらいの感想になってしまいます。
でも「絶対に観るべきだよ~」と皆に声を大にして言いたいから☆4.5。
屠殺の場面がありますが、その肉を我々は頂いている。昔だったらごく普通に庭で鶏を潰してそれが食卓に並ぶんだというのは子どもでも見ていた事実。だから隠すのではなく子どもにだって観てもらいたい映画です。
やはり原作の持つ力は大きい。(アニメは未見)
そういう漫画を映画化するとがっかりすることが多いですが、この映画は原作の世界観はそんなに壊さずに仕上がっていると思います。あれ?こんなエピソードあったけ?こういう展開になったけ?と私の勘違いかもしれないけど、すべて原作に忠実というのではなく作り変えているようです。でも言わんとしていること、その世界観は、”映画”ならではのやり方で表現しています。(例えばドキュメンタリー風の屠殺の場面の挿入)
原作は、原作者の代表作『鋼の錬金術師』のように、重いテーマ・現実を、時に誇張・デフォルメされたギャグを交えながら、原作者独特のスピード感・リズム感で描き出しています。
原作に比べると映画は淡々と進みます。時に原作にあるギャグが入りますが、基本淡々と。
例えば、主人公・八軒が初めてばんえい競馬を観る時のばんえい競馬は漫画の方が迫力があります。(漫画では、主人公が初めて生き物の力強さに触れる場面としての躍動感が半端ない)
キャストも基本よくキャスティングしたなと思います。特に南九条役の黒木さんは後半ばんえい競馬の場面ハマってました。タマ子はどなたが演じていらっしゃるのでしょうね。ぴったりです。
反面、駒場役の市川君は駒場ほど目力はない。でもだからこそ、等身大の高校生として現実感が出ていました。獅童さん演じる中村先生も漫画より普通の人間として描かれていました。だからこそ、獅童さん演じる中村先生が言う「あいつなら…」という言葉にじーんと来ました。
より地に足付いた現実感溢れる映画になったと思います。
主人公・八軒目線で描かれている物語なので青春映画と言ってしまえばそれまでなんだけど、命をはじめ生きるってことに改めて気付かせてくれる映画かな。そういう意味では文部科学省のお墨付きで全国の小学校~大学等で上映してほしい。なんて書くと説教臭い道徳的な話に見えそうですが、肩の力を抜いて楽しめる映画です。
命の繋がりを忘れてしまった人、いろいろ背負っていてへたれそうになっている人、自分の力で成功したと思っている人に特に観ていただきたい映画です。
原作には他にもエピソードたくさんあるので、ぜひ、原作をご鑑賞ください。