「青臭くても老練」アメリカン・ハッスル 小二郎さんの映画レビュー(感想・評価)
青臭くても老練
「本当の自分を探す」
そんな青臭いテーマを、『アメリカの災難』からずっと掲げてきたラッセル監督。
本作も手練な詐欺師の話なのに、その青臭さは健在。
「そもそも本当と嘘の境目ってどこ?」「私の嘘は何のため?」という詐欺師らしからぬ問いを、コンゲームに絡めて描く。
自分を騙すために人を騙す。
言いくるめていた相手は他人ではなく自分だったということに気づくまでの道すがら。
詐欺師とその妻、そして愛人。もう若くはない男女の内省は滑稽で情けない、コメディだ。
だが、各々が自分の嘘に気づき認めた時、その滑稽さは痛みとなり微かな感動へと変わる。
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監督のもう一つのテーマは時代の振り返りだろうか。
『アメリカの災難』で80年代から60年代までのアメリカの姿を振り返り
『スリー・キングス』で湾岸戦争を取り上げ
『ハッカビーズ』で何故かアーミッシュまで遡り
アメリカのエポックを描いてきた。
「本当の自分を探す」旅は、自分のルーツを探す旅でもあり、「本当のアメリカを探す」旅でもあるからだ。
本作では70年代後半の狂騒…捩じれたアメリカンドリームを描いた。
逮捕される側よりも逮捕する側の「偽」を強調するあたりが面白い。
ラッセル監督が描く「昔」は、誇張され滑稽でコメディだ。
滑稽に内省する主人公と同様に、アメリカもまたフラフラと惑っている。
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いろんなモノを探しすぎて青臭く浮ついた映画になりかねない本作を、上手く転化させたのは演出の巧みさであり俳優陣の熱演でもあるのだろう。
特にジェニファー・ローレンスの迫力あるブルーカラー感はラッセル作品のインテリ臭を消すのに一役買っている(プレイブックもとても良かった)。
そしてジェレミー・レナー演じる市長、彼もまた自分で自分に嘘をついていたことを最後に認めるわけだが、そのシーンが地味ながらとても良いと思った。
青臭くありつつも老練で巧みな映画だと思った。
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追記:ラッセル作品特有の「オフビート」な作り、多くの方がテンポが悪い映画だと思われたようだ。
『ハッカビーズ』に比べれば100倍くらいテンポ良くなっているので、大目にみてあげてほしいと思った。