「西海岸の爽やかな空気と人間の醜いサガ」ブルージャスミン もしゃさんの映画レビュー(感想・評価)
西海岸の爽やかな空気と人間の醜いサガ
人間性の観察と、深く暗い人間の性を鋭く描き出しながらも、ユーモラスな表現がとってもコントラストとパンチの効いた映画で、やはりウッディアレンは天才だなぁと思い知らされました。
ケイト・ブランシェット演じるジャスミンが飛行機で昔を思い出しながら、優雅な暮らしを隣の席の婦人に語るところから始まりますが、もうこの時点でジャスミンの人間性を説明するには十分なほどのオープニングで、しかも飛行機を降りて婦人と分かれるシーンで笑いを誘うとは…
すべてを失ったジャスミンはまったく性格の違う妹を頼りにサンフランシスコへ。優雅なニューヨーカーのたたずまいばっちりのジャスミンと、少しカントリーテイストの強いサンフランシスコの対比がまたすばらしくミスマッチでよかったです。
しかし、ウッディ・アレンってほんとにすごいなーと思ったのは、サンフランシスコの町並みや、ジャスミンが後に婚約をするドワイドのロスって言ってたかな?のオーシャンビューとか、その街を切り取るのがとってもうまい!!この景色だけでもこの映画ってすごいなって思うし、空気が伝わってくる感じがとてもよかったです。
そして、そのシスコの緩やかで暖かでどこか抜けのある空気をベースに物語が進むわけですが、内容的には、過去の栄光と虚栄心と猜疑心の強いジャスミンが「普通」の感覚を持つ人々と軋轢を起こしつつ、必要以上に自分を大きく寛大なものに仕立て上げ、現状認識や今のおかれている状況から逃避をする人間として、おちるところまで落ちていくという映画です。
言い方を変えるとよくある「私やればできるの…できるからやらないけど」っていう人間性を鋭く描き、その人間が落ちるさまを面白おかしく描いたって感じなのでしょうか?
しかしこのジャスミン…救いようがないの一言です。破産したのにファーストクラスにのってくるわ、大学を中退しているのに、自分は非常に頭がよく、だんなと出会わなかったらものすごい仕事をしてたはずって思い込んでるわ、何のセンスもないのにインテリアコーディネーターが天職と思い込んでるわ…。それだけならまだしも、とにかく他人を下に下にみるわ、自分のことしか考えていないわ、都合の悪いことは目を瞑るは、何かがあれば人のせいにするわ…。唯一の才能は人を虜にする美貌…と。映画の中でも元旦那を除いても3人の男が言い寄ってくるわけですが、本当によくもまぁ…。
旦那が詐欺まがいの投資ビジネスをして巨万の富を得て、ジャスミンは何不自由ない生活をしているわけですが、旦那様もナイスガイなのですね、周りに女性が事欠かない。見てみぬふりをしてきたジャスミンがようやく旦那に浮気を問い詰めると、旦那は「今度のは本気だから、別れてくれ」と。今思えばこの旦那様もジャスミンの美貌にほだされて付き合ったものの、中身のなさに気づいたのでしょうね。
妹とのコントラストもジャスミンを際立たせる大きな存在です。妹は本当にかわいいのにどこか垢抜けず、お金もちではないけど、明るく元気な子供と、支えてくれる男性に恵まれて、いわゆる「小さな幸せ」を糧に日々を送る女性。ジャスミンにいろいろいわれた事もあり、男性を乗り換えてステップアップを図るものの、結局はだまされていたことも発覚してしまうほど、垢抜けなさにもほどがある。そして、ジャスミンにどんないやなことを言われても、義姉として立てる姿も、妹を見下しているジャスミンとは対照的で非常に強いコントラストになっています。
物語はシスコで再起を図るジャスミンに、ドワイドというお金持ちが現れ、ついにセレブの世界にカムバックか?と思いきや…
いやー、そりゃそうでしょう。ざまーみろですよ…という展開なのですが、ラストの救いようのないシーンがとても切なくなりました…。
ということで、頭のおかしい女性が落ちるところまで落ちるという救いようのない話なのですが、これがさまざまなものとの対比で非常に鮮烈に描かれた秀作です。話の中身としてはとても救いようがないし、面白くないものかもしれませんが、さまざまに用意された対比的な表現だったり、シスコの空気感だったり、笑いどころ満載なところも含めて、とても楽しめる映画でした。