好きっていいなよ。 : インタビュー
川口春奈&福士蒼汰、等身大の“今”をぶつけた恋愛のリアル
数多く製作されてきた少女漫画原作の映画の中でも、ここまでふんだんにキスシーンがちりばめられた恋愛映画は珍しい。主人公の高校生カップルが繰り広げるキス満載の予告編も注目を集めたが、本編ではもちろんそれをさらに上回る数のキスが連発される。そんな初々しさあふれるキスにはじまり、初恋に戸惑う高校生たちの一挙手一投足を丁寧にすくい取ることで、彼らの視点から見える世界を描き出そうという試みが感じられる青春恋愛映画「好きっていいなよ。」。恋をすることで人としても微妙な成長を遂げていく主人公を演じた川口春奈と福士蒼汰に、同世代ならではの率直な思いを語ってもらった。(取材・文/山崎佐保子、写真/江藤海彦)
中学時代に起きたあるできごとをきっかけに、友人も恋人も作らずに生きてきた16歳の女子高生・橘めい(川口)。しかし、最も遠い存在だった学校一の人気者・黒沢大和(福士)とひょんなことから接点を持ち、2人は次第に惹かれ合っていく。
同じ事務所に所属する川口と福士は、演技レッスンなども一緒に受けてきた同世代の役者仲間。川口は、「福士君と共演するということは前から聞いていたので心の準備はできていたけれど、何だか新鮮でした。でも実際の撮影期間は緊張の連続。相手のことも大事だけど、何より自分自身で精一杯で。芝居もまだまだの中、福士君に助けてもらった部分は大きいです。何を投げかけてもちゃんと受け止めてくれたので」と厚い信頼で結ばれていた。福士も、「春奈ちゃんのことは前々から知っているけれど、『どうなるかな?』と思っていました。何というか、不安ではないけれど安心感でもなく。だけど久々に会ったらすんなりとお互い役に入れたように思います。春奈ちゃんも気にせず話しかけてくれて」と振り返る。
2008年4月に「月刊デザート」(講談社刊)で連載がスタートした葉月かなえ氏の原作漫画は、累計発行部数540万部を突破する女子たちのいわば“恋愛バイブル”。視線を交わす、名前を呼ぶ、手をつなぐ、キスをする。主人公カップルがそんないくつもの“初経験”を経ながら互いを知り、少しずつ思いを寄せていく姿に、若い女性たちは初恋を思い出して胸をときめかせるのだ。
原作の映画化につきまとう宿命として、原作と映画との間に生まれる必然的なギャップがある。観客によって捉え方はさまざまだが、原作の世界観をそのまま脳内に思い描くファンもやはり多い。そんな中で川口は、「原作はまだ続いているし、原作とは全く別のものとして見てほしいですね。原作ファンの方も原作を知らない方も、ひとつの映画として評価してほしい。私自身、原作に忠実にしようとはあまり意識していなかった」と自然体。一方の福士は、「大和って女性の理想像だから、読者が思い描くイメージも余計に強いと思います。少女コミックの映画化なので、演じるからにはできるだけ理想に近づけないといけないと思いました。例えば髪型について監督から特に指示はなかったけれど、僕が原作を読んで『大和は髪を耳にかけるんだ』と思ったので、自分が気になったところは映画でも残しておいた方がいいかなと思って提案しました。だからといって原作に引っ張られ過ぎてもいけないと思うので、まずは脚本を第一に優先して役作りを考えました」とアプローチを練った。
「森崎書店の日々」の日向朝子監督が脚本も兼ねたが、若手女流監督ということもこの映画のタッチに大きく影響していると思われる。川口は、「撮影前にも何度かお会いしたし、撮影中もほぼ毎日話し合う時間がありました。お互いに意見を出し合いながら、一緒に役を作り上げていく感じ。演じづらいところも、そう感じたらきちんと伝えながら、なるべく監督の撮りたい画に沿いたい、期待に応えたいと思っていました」。
繰り返されるキスシーンにも、日向監督ならではのこだわりがあったそう。福士は、「キスシーンには細やかな演出がありました。『このキスはこういう意味だから』とか、『このキスは2回しよう』とか。ワンシーンの中で6回くらいキスをすることもあって、さすがにあそこは不安でした(笑)」と照れ笑いを浮かべた。
川口と福士のほか、市川知宏、足立梨花、永瀬匡、西崎莉麻、山本涼介、八木アリサらフレッシュな若手キャストが共演し、思春期の若者が抱える悩みをさまざまな形で描いている。人懐っこい笑顔で周囲を和ませる福士は、「高校生の時の僕は、この映画の世界の人たちに比べて何も考えていなかったと思う(笑)。好きな授業は頑張っていたけど、嫌いな授業は寝ていたし、何も考えず好きなように生きていたと思う。何か考えていたとしても、言葉にするのってなかなかできないこと。この映画に出てくる高校生たちは、ちゃんと相手に言葉と気持ちをぶつけていてすごいなって思いました」とはにかんだ。しかし、どこか浮いている人を気にかけてしまう大和との共通点もあり、「僕自身、輪から外れていたり疎外されていたりする人がいると、男でも女でも気になる。つい『来いよ』って話しかけて仲間になりたいタイプ」とリンクした部分も大きかった。
一方の川口は、役柄と自身のギャップに悩んだという。「性格も家庭環境も自分と全然違うから、そこに自分を投影するわけにもいかず、めいの気持ちを理解するのは簡単ではなかった。経験から引っ張り出せるものがないので、想像で『きっとこんな感じなんだろうな』と考えながら演じました」と生まれ持った“素”ではなく“芝居”が要求された。しかし、同世代であるという等身大のアドバンテージもあり「自分も実際に経験してきたものなので、分かるところはすごく感情移入できました。恋愛に対しての恐れだったり、人間関係や仲間たちとうまくいかなかったり。今の子たちが抱えているその気持ちはよく分かるし、みんなリアルで人間くさくって親近感が沸きました」と共感もあった。
2人が制服を脱ぐ日はまだまだ先かもしれないが、今この瞬間でしか残せないものがくっきりと映像に焼き付けられた。福士は、「少女漫画原作ってやってみたい作品だったので、ひとつ夢がかないました。大和はイケメンで良いやつだけど、今度は対称的に汚くて悪いやつもやってみたい」と期待はふくらむばかり。少女から大人の女性へと成長する過渡期ただ中の川口も、「恋愛モノは昔からやってみたかったので、10代のうちに大きく自分を成長させてくれるような作品に巡り合えてよかったです。芝居の振り幅もすごく広がったし、今後また恋愛モノをやる時の自信にもつながった。これからもきっと原点になっていく作品だと思います」と充実感をにじませた。